第1884話 世界の崩壊を防ぐ戦い

「とんでもねぇ事になっちまってやがるな……」


「――」(ヌー、起きたのか!)


『次元の狭間』から出た事でようやく意識を取り戻した大魔王ヌーが、傍に寄り添い立っている死神のテアにそう話し掛けた。


「わりぃ、どうやらあの野郎の『時魔法タイム・マジック』の影響は存外に大きかったようで、かなり時間が掛かっちまった。それでこれはどういう状況なんだ?」


 大魔王ヌーは『次元の狭間』では意識を保てない為、突入までの記憶しか持っておらず、ようやく意識を取り戻したかと思えば、煌阿こうあと戦っていた筈のソフィが、現在は空の上からこの世界を破壊しようとするかの如く、恐ろしい『魔法』を展開している状態にあった為、ヌーはどういう事かとテアに尋ねたのだった。


「――」(ソフィさんはアイツのせいで、幻覚に囚われているようなんだ。錯乱や混乱状態というよりは、この場に居ない誰かと戦っているみたいで、その幻覚の相手を滅ぼそうと本気になりかけてるって感じだよ……!)


 テアの説明は非常に端的で分かりやすかったが、だからこそヌーは頭を抱えて溜息を吐くのだった。


鹿……! 本当にアイツは詰めが甘い野郎だな……! 確実に仕留められると思った時に仕留めやがらねぇから、いつもあの野郎は想定外の反撃を受けやがるんだよっ……!」


「――」(でもよ、ヌー? あの空間内では、ある程度は仕方がないんじゃないかな? 、あの『次元の狭間』じゃ? ソフィさんだって、ってわけじゃないんだから、抵抗出来なくなるのは当然といえば当然なんだぜ?)


「ちっ……! そんな事は今更言われなくても分かってんだよ! ただアイツはいつも慢心しすぎだって事を言いたかっただけだよ! まぁいい、それで『結界』の外側の白い景色は一体何なんだ?」


「――」(どうやら力の魔神様が『結界』を張ってくれているみたいなんだよ。すでにさっきもソフィさんの攻撃もこの『結界』で防いでくれたんだ。でもその『結界』で防がれた事でソフィさんが新たに『魔法』を展開し始めたんだよ。んでだな、ヌー……。多分これ、このままだったら次は私たちも終わりだと思うよ)


「確かにな……」


 ヌーはソフィとそのソフィによって、広範囲に展開されていく『絶殲アナイ・アレイト』を眺めながらそう静かに言葉にするのだった。


 …………


王琳おうりん様、どうなされますか?」


「ああ……。最後まで傍観していようと思ったが、流石にあれは見過ごせないな。あの魔神だけじゃ、この数を防ぐのは無理だと断言出来る。七耶咫なやた、俺が奴の攻撃を引き受けるから、お前は煌阿こうあの相手をしろ」


「はっ! 仰せのままに!!」


 …………


「ミスズ、どうやらソフィ殿がおかしくなっているのはが原因のようだ」


「はい、私もそう思います。何らかの『魔』の技法を用いられた事で、ソフィ殿は一種の催眠状態に囚われているのでしょう」


「どうやらそのようだ。お前はヒノエ組長達と共にあの者の相手を頼む」


「総長は……?」


「俺はソフィ殿の方を何とかしてみせる」


「……」


 先に空に浮かぶソフィの方を見上げ始めたシゲンに、追従する形で見上げたミスズは、無言で増え続けていく『絶殲アナイ・アレイト』に眉をひそめた。


 ミスズはあの放たれようとしている『魔法』の一発でさえ、当たれば即死するだろうなと想像していたが、ふと隣に立つシゲンの異変に気付いて視線を戻した。


「そ、総長……!?」


 シゲンが『金色』と『青』を纏い始めていたが、普段の『青』よりも少しだけ薄く緑がかった色が同時に纏われていた。


……?」


「わ、分かりました! 皆さん、よく聞いて下さい……!」


 ミスズがヒノエやスオウにキョウカ達の方へと伝達に向かうと、その場に一人残ったシゲンは笑みを浮かべながら刀に手をあて始めた。


 ――そのシゲンの目には、これから何かに挑戦するのだという気概がこもっていた。


 …………


 妖魔退魔師の副総長であるミスズの号令に聞き耳を立てていたエイジとゲンロクは、その内容を把握した後に顔を見合わせた。


「ゲンロク、小生達もミスズ殿達の方に協力をするぞ」


「あの妖魔の方をか……? ソフィ殿の方の『魔』の技法に対しての『結界』の方がよいのではないか?」


「いや、あのソフィ殿が放とうとする『魔』の技法に対抗できる『結界』など、シギン様やサイヨウ様でもなければ生み出すのは不可能だ。それよりも小生らはミスズ殿達の攻撃に合わせて『僧全』で弱体化を図るぞ」


「ふむ。まるでかつてとはあべこべじゃな。ワシらが妖魔退魔師のサポートをやるという事か」


「時代は変わったという事だろう。いつまでも停滞する事を良しとしないゲンロクには、願ってもない事だろう?」


「かっかっか、言うではないかエイジよ」


 そう言ってエイジとゲンロクの双方は笑い合い、やがて妖魔退魔師のように『青』を纏い始めた。


 妖魔召士が『青』を纏うというのは非常に珍しい事ではあったが、エイジもゲンロクも『シギン』と『サイヨウ』という師と呼べる存在から『魔』の技法を見習ってきている。


 互いにしっかりと練度が『5』に達した『青』を纏いながら、ミスズ達の動きに着目するのだった。


 ――これより妖魔山の中で、世界の崩壊を防ぐ戦いが始まるのだった。

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