第1827話 卜部官兵衛の編み出した封印特化技法

 シギンの放った『空間歪曲イェクス・ディストーション』が、そっくりそのまま煌阿の『透過』の効力によって跳ね返されると、シギンの居る場所の空間が歪んでいく。


(ちっ! まずい、早く『空間歪曲イェクス・ディストーション』を打ち消さねば、最悪奴の『透過』でそのまま俺自身に対して……――)


 もうすぐ彼の『動殺是決どうさつぜけつ』の効力を伴った手が煌阿に届くといった距離だったが、先に『空間歪曲イェクス・ディストーション』を解除せざるを得なくなってしまい、シギンは残念に思いながらも『動殺是決』を取りやめると直ぐに『透過』を用いようとするのだった。


 しかし、それを指を咥えて黙って見ている煌阿ではない。


「残念だったな……。お前にも俺と同じ苦しみを与えてやろう」


「いや、お前の寿命では出て来る前には、もう白骨化しているだろうなぁ……」


 これまでの全てが後手後手の対処にあたらされていたシギンだが、ここで更に取り返しがつかない攻撃を受けざるを得なくなるのだった。


 ――魔神域『時』魔法、『隔絶空地入法かくぜつくうちにゅうほう』。


 この『空間魔法』の正体こそ、卜部官兵衛うらべかんべえが煌阿を強制的に『結界』内に閉じ込めるに至った『魔』の技法であり、別世界ではとされる領域の『時魔法タイム・マジック』であった。


 シギンは自身に向けて放たれた『隔絶空地入法かくぜつくうちにゅうほう』を一目見てまずいと判断して、これまでで一番の焦りを見せたが、その『隔絶空地入法かくぜつくうちにゅうほう』に対しての対応をするいとますら彼には与えられなかった。


 何故ならこの『時魔法タイム・マジック』の前に、シギン自身が煌阿に放った『空間歪曲イェクス・ディストーション』が場に残されているからであった。


 ――『空間歪曲イェクス・ディストーション』もまた『時魔法タイム・マジック』の一種であり、非常に強力な『空間魔法』である。


 山の頂でシギンが用いた時には『特別攻撃ラスト・アタック』を発動させたエヴィを神斗の攻撃から遠ざける為、本来であれば観測が行えない場所にさえ、この『空間歪曲イェクス・ディストーション』を用いる事によって、強引に『次元の狭間』という道を生み出してシギンの選んだ場所に任意に安全に移動を行えたが、それ以外にも『空間歪曲イェクス・ディストーション』には使い道が多々ある。


 その使い道の中でも戦闘に於いて使用頻度が随一となるのが、相手との間合いを任意に変更させる手立てとして用いる事にあった。


 シギンや煌阿の居るような『魔』の概念の領域者であれば、相手の意識を僅かにでも外す事が出来るだけであっても相当のアドバンテージを得られる事になるが、それが一方的に相手の距離感を狂わせられるというのであれば、その戦闘では取り返しがつかない程となるのは自明の理である。


 つまりシギンは『隔絶空地入法かくぜつくうちにゅうほう』を解除する前に、この『空間歪曲イェクス・ディストーション』そのものを確実に解除しなければ、たとえ彼にとって未知なる『隔絶空地入法かくぜつくうちにゅうほう』を見事に解除したとしても、今度はその『空間歪曲イェクス・ディストーション』によって隙だらけとなった場所に移動させられて、その後の更なるとどめの一撃といえるものを一方的に受けさせられて終わりとなってしまうのだ。


 そこでシギンが取った行動とは、 『透過』によって跳ね返された『空間歪曲イェクス・ディストーション』を更に同規模の『透過』で更に相殺しようとすることであった――。


 ――だからこそ、卜部官兵衛の奥の手として用いられた『隔絶空地入法』を一身にその身に浴びてしまう事となってしまうのであった。


 煌阿こうあは『金色の体現者』にして、流石は『魔』の概念に長けている『ぬえ』の一族である。


 そして煌阿が卜部官兵衛との戦闘において


 シギンと同じ『空間魔法』を用いるのに必要な『ことわり』に、妖魔に対して特効を及ぼす性質の『捉術』の『魔』の概念の部分への学び。そしてこのとされる『時魔法』の『隔絶空地入法かくぜつくうちにゅうほう』である。


隔絶空地入法かくぜつくうちにゅうほう』は、対象者そのものを空間内に引きずり込んで封印するというものではなく、対象者の『魔法』といった『魔』の概念に対しての細分化であり、その細分化された『魔』の概念を別々の空間に保存させるという『魔』の技法に特化して『封印』を目的とした技法と呼べるものである。


 同じ『ことわり』を用いているだけはあり、シギンが得意とする『空間魔法』の一種である『輝鏡』という『魔力』そのものを封印させる『封印』技法にある意味で『隔絶空地入法』と効力は似ている。


 だが、この『隔絶空地入法かくぜつくうちにゅうほう』と『輝鏡ききょう』は似て非なる『魔』の封印技法と断言が出来る。


 『輝鏡』は割られる事で効力が発揮されるタイプで『受動的』なものだが、反対に『隔絶空地入法かくぜつくうちにゅうほう』は相手からの攻撃を必要とせず、詠唱者側が『能動的』に行う事で効力が発揮されるというのがまず一点。


 ――そして二点目となる相違点が、対象となる効力そのものの違いである。


 そもそもがこの『輝鏡ききょう』が封じる対象と呼べるものは、相手の『魔』の概念を発動させるのに必要な燃料と呼べる『魔力』そのものにある事に対して、この『隔絶空地入法かくぜつくうちにゅうほう』は『魔力』ではなく『魔』の技法そのものが対象となる。


『魔』を用いた概念の数は非常に膨大であり、その膨大な数を絞る目的として分類した場合であっても、それこそ抽象的に位置付けされるものや、ハッキリと効力の説明がつく具体性のある『魔』の概念はまだまだ数多ある。


『魔』の技法の多くに必要とされる『ことわり』そのものが『魔』の概念と呼べるし、その『ことわり』を必要としない『魔』の技法である妖魔召士の編み出した『捉術』もれっきとした『魔』の概念なのだ。


 戦闘に用いる攻撃や防御に、戦闘外で効力を発揮する『魔法』『捉術』『呪いまじな』、更には『オーラ』といった自身の能力の増幅など、それら一切の全てが紛れもなく『魔』の技法である。


『魔』の概念のものとして一括りにされているそれら一切のものを『隔絶空地入法かくぜつくうちにゅうほう』は細分化させて封じる事の出来るという、いわば『封印』技法のヒエラルキーの頂点に位置するものがこの『空間魔法』と呼べるのであった。

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