第1809話 同じ土俵の中での戦い
シギンと煌阿の戦いは再び仕切り直しと相成った。
しかし戦闘開始時と現在の明確に違う点は、シギンが煌阿に対して攻めづらく感じている事にあった。
実際にそう感じるに至った理由はこれまた明白ではあるのだが、シギンが煌阿を弱体化させる為に用意した『
そればかりか『透過』の到達領域が『神斗』や『悟獄丸』はおろか、自分と同等領域と考えられる点も大きい。
シギンは神斗程に『透過』を『魔』の技法の中心とは考えてはいないが、それでも『時空干渉領域』にまで到達されているというのであれば、非常に厄介極まりないと言わざるを得ない。
これがまだ『煌阿』の総魔力値がシギンを下回っていたならば、膨大な『魔力』を用いた飽和攻撃を展開して一気に波状攻撃で押し切るという手もあるが、もし煌阿がシギンよりも総魔力量が上の場合、その全ての攻撃に対して丁寧に対応をされるようなことになれば、先に追い詰められるのはシギンとなりかねない。
まだシギンよりも煌阿の方が『魔力値』が上だと決まったわけではないが、それでも『透過』一つとっても到達している領域を省みても、決してごり押しで何とかなるような相手ではない事は明白である。
(ふむ。俺の『魔』の概念の理解度を推し量るに適した相手が見つかった事は非常に喜ばしい事だが、今度はこちらがやられる危険というものも考えなければならなくなったな。ここまでの人生に加えて、長年この山で生きてきた俺だが、死の危険を意識しながら戦闘を行うのは生涯で初めての出来事といえるな……。さて、どうするか)
成人を迎える頃にはすでに、この世界に存在しない『理』そのものを生み出してみせ、更には『魔法』や『魔力コントロール』に『オーラ』の技法までをも体現していたシギンは、当然ながらこれまで戦闘で苦戦を強いられた事はない。
確かに『悟獄丸』や『神斗』に関しても、決して弱くはないという認識は持っているが、あくまでそれは他と比較した時による客観的な感想に過ぎず、実際に自分が戦って『悟獄丸』達に敗北するかもしれないというような気持ちを抱く事は一度足りともなかった。
――だが、この煌阿は違う。
先程の『蒙』という相手を強制的に弱体化させる『魔』の技法を向けられて尚、それを阻止するのではなく、あえて利用してその先に待ち受けるだろう攻撃に備えて動くような相手とは、これまでシギンは出会った事がなかった。
こういった対人対策の戦術は、いつかはサイヨウ達が行えるようになるだろうなとシギンは考えていたが、まさか自分が苦戦するような戦術を人間はおろか、妖魔がして来るとはシギンも思わなかった。
相手の力を利用しながら戦うという事は、少なくともそれを行おうとする余裕を持って戦っているという事に他ならず、煌阿が一体どれくらいまで『魔』の理解度を深めているか次第では、罠を仕掛けて戦っているつもりが、いつの間にか自分が手玉に取られる可能性だって否めないのだ。
下手に攻撃を仕掛ける事で『煌阿』にそれを利用されてしまい、先程のようにこちらが有利を取っているつもりが、いつの間にか相手の土俵の中で戦わされてしまっている可能性もある。
しかしだからといって何もせずにこのまま防御に徹していれば、いずれにせよ後手後手に回されてしまい、いつかは取り返しのつかない不利を被る可能性も否めない。
結局は同じ土俵に立つという事は、有利不利を戦術面の中で上手く立ち回り、自分の力で見出していかねばならないという事なのだろう。
これまでの生涯でこんな風に、勝つか負けるかを戦闘中に考えるような事がなかったシギンにとっては、未知なる経験を味わっている最中に他ならなかった。
(ひとまずはこやつの『透過』の使い方がどこまで完璧なものかを把握しておかねばなるまいな。先程の『蒙』を破って魔力値を戻すのに使ったであろうものは『時空干渉』の領域で間違いなく、使い方もあれしかないという程に完璧なものであったが、裏を返せばあれ以外に『結界』を抜け出る事は出来なかったという見方も出来る。もう少し観察してみるとするか……)
そう言ってシギンは再び『
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