第1785話 新たな規格外と呼べる存在
シギンの呟いた独り言に眉を寄せた神斗だが、相手が自分を遥かに上回る『魔』の理解者だという事は既に分かっている為に、思うところはあれども言及をせずに聞き流した。
そして代わりに視線をシギンから洞穴の奥に居る『鬼人』に向け直すと、神斗は今度はそちらに話し掛けるのだった。
「君は
神斗もすでに『殿鬼』がいつもの様子とは違う事には気づいているが、実際に何が違うのかまでは詳しくは分かっていない為に、いつも通りに相手との意思の疎通を図りながら何処かがおかしいのかを具体的に割り出そうと観察を始めた。
「お、お前は……!」
奥に居た殿鬼の姿を借りてこの場に立っていたその『存在』は、現れた神斗を一目見ると、心底驚いた様子を見せた。
直後、煌阿は恐ろしい程までに憎悪に歪む表情へと変貌させたかと思えば、一瞬の内に神斗の眼前に移動を行ってみせるのだった。
「
「!?」
(なっ……! この俺にも移動するところが全く見えなかった。い、いや……、これは単に速度の問題ではなく『転移』の技法、若しくは『空間』そのものをイジったか!?)
シギンはあっさりと目の前から姿を消したその『存在』が、どうやってそこから移動をしたのか分からないままではあるが、神斗の前に移動した後の言葉でようやく居場所を認識出来たのであった。
「そ、その『魔力』は、ま、まさか! お、お前は『
神斗が突如として目の前に移動してきた『存在』の名らしきものを告げると同時、腹部に激痛が走って倒れそうになるが、何とか苦悩に顔を歪めながらも手で腹部を押さえながら堪えるのだった。
「痛いか? しかし仲間だと思っていたお前らに
そして腹部を押さえながら苦しそうにその『存在』の顔を見上げている神斗に向けて、今度は思いきり足を突き入れようとするのだった。
しかし確実に神斗を蹴り飛ばす筈だったその『存在』の足には何の手応えが感じられず、神斗の姿が忽然と消え去った事でその『存在』は後ろを振り返る。
そしてそこには『シギン』に襟首を掴まれている神斗の姿があった。どうやら『煌阿』に蹴られる前に神斗が『空間』を操って救い出したのだろう。
「勝手に俺を無視して話を進めないでもらおうか。お前たちがこんな狭い洞穴で暴れてしまえば、山に影響を及ぼしてあっさりと崩落してしまうだろう。悪いが今のこの山には俺の大事な仲間達も居るようなのでな。少し場所を変えさせてもらうぞ」
シギンがそう告げて直ぐに手印を結び始めると、あっさりと場に用意されていた『スタック』が反応したかと思うと、その洞穴の至る場所に伝播するように光が煌々と放ち始めるのだった。
――そして次の瞬間。
『シギン』『神斗』『煌阿』の三名の姿が、洞穴の中から一瞬の内に消え去ってしまうのであった。
これは妖魔召士シギンの『空間魔法』の効力ではあったが、しかしシギンが想定していた目的の場所である筈の『山の頂』の方ではなく、三名が辿り着いた場所は同じ『妖魔山』の中ではあるが、全く異なる場所に飛ばされるのであった。
「ちっ! まさか『
どうやら『
そしてそのシギンが使った『空間魔法』は、大魔王フルーフが使っている『
その大魔王フルーフの『
本来は下界でこういった『空間魔法』の影響下にある存在は、ヌーのように一切認識が出来ない事が当然なのであり、大魔王ソフィや、この『
実際に『次元の狭間』で自在に動く事を可能と出来る者は、 『天上界』の存在である『魔神』達や、同様に『神格』を有する『死神』達くらいのものである筈であった。
それも無理やりに『空間』の道筋を突き破って行き先を変更させる者など、現時点においてはあらゆる世界を見渡しても皆無に近いだろう。
――よっぽどの『魔』の概念を熟知している事を前提とした、魔神の領域に立つ程の存在でなければ不可能な事だからである。
そんな事をあっさりとやり遂げたのが『煌阿』ではあるが、当然ながら彼は『空間』を自在に操る術などこれまでは持ってはおらず、ソフィのように感覚的に初めてとなる『次元の狭間』の中で、妖魔召士シギンの『力』の影響下から抜け出す為に身体を動かしたに過ぎないのだろう。
しかしそれでも結果的には、下界の存在が行える行動の範疇を越えた者が、この場にまた新たに出現を果たした事といえた瞬間であった。
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