第1784話 予期せぬ乱入者

「貴様、まさか俺の知っているではないのか? そのような発言をするような奴ではなかったように記憶しているが……」


 どうやらその『存在』は、目の前のシギンの『魔力』が、彼のよく知る『卜部』という妖魔召士と瓜二つであったことから『卜部』なのだと決めつけを行っていたが、こうして実際に会話を交わした事で、別人のような違和感を感じ始めた様子であった。


「残念だが、俺はお前の考えている通りの『卜部』という人間ではない。そもそもお前を初めてみたのは、すでにこの洞穴の中に閉じ込められている時が最初だ。それもその時にはもう精神体と呼べる姿の『魔力』の残滓だけで、直にその顔を見たわけでもなかった」


「……」


 過去の幻影を消し去って、しっかりとシギンの顔を見つめるその『存在』は、今の言葉をしっかりと記憶するように頭の中で反芻させた上で何やら考え始めるのだった。


(確かに卜部の奴はこんな風に強い言葉を放つ奴ではなかった。いつもオドオドとしていて、同じ人間達に対しても顔色を窺って言動をするような奴であまりにも性格が異なり過ぎている……)


 この『存在』から見た卜部という妖魔召士は、ひとたび戦闘となれば誰よりも厄介な人間ではあったが、普段の振る舞いがあまりにもこの妖魔召士とは違いすぎており、一致する部分が『魔力』の種類と『魔力値』の高さくらいのようであった。


 しかしたったそれだけしか類似点がない者同士ではあるが、それでもこの『存在』が目の前のシギンを卜部という妖魔召士と思った理由は一つだった。


 ――それはこの『存在』にとって目の前のシギンという妖魔召士が、唯一自分に対して障害になるだろうと考えたからに他ならない。


「間が悪いというか、全く……。何もこんな時に長きに渡って安定していた『結界』が破られなくてもいいだろうに」


 妖魔召士であるシギンは、自分の『魔力』がこれ以上、この山に居る者達に伝わらないように認識阻害の『結界』を施したかと思えば、次の瞬間には『青』と『金色』の『二色の併用』を行って、一気に自身の編み出した『ことわり』を用いる『魔法』を扱える状態にまで『魔力値』を高めるのだった。


「貴様が卜部なのか、そうでないのかはどうでも良くなった。その状態になる事が出来る者なのであれば、間違いなく俺と戦うに値する生物に他ならないという事だからな」


 ――そしてその『存在』もまた、シギンと同様に『青』と『金色』の『二色の併用』を行い纏い始めた。


 互いにオーラを纏った瞬間、先にシギンが動きを見せ始めたかと思うと、一気に複数の箇所に『スタック』ポイントを生み出し始めた。


 そして魔力回路に溜め込んだ『魔力』を開放して『空間魔法』を展開しようとしたシギンだったが、そこで洞穴に何者かが近づいた事を察して瞬時に行おうとしていた『魔法』を取りやめる。このままではその近づいた何者かまで巻き込んでしまう為であった。


「どうした? 何をやろうとしたのか見ておきたかったのだが、何故取りやめたのだ……、ん?」


 シギンが何かをしようとして、その行動をいきなり取りやめた事が不可解だった為に、相対する殿鬼の身体をした『存在』は訝しそうに眉を寄せながらそう告げた。


 やがてその言葉に対しての返答をシギンが行う前に、答えを持った存在がこの場に姿を見せるのであった。


「やっと探し人が見つけられたと思ったら、いやはや、これは一体どういう状況なのかな?」


 こんな狭い洞穴の中で決して無視が出来ない程の強さをした存在が、互いに戦闘態勢に入っているのを見たその乱入者は、不可解なモノをみるような視線を入り口付近からシギン達に向けるのだった。


 ――そしてこの場に現れた乱入者とは、この『妖魔山』を統括する妖魔達の神とされる『神斗』であった。


「これは驚いたな。俺を探している事には気づいていたが、まさか認識阻害を受けて尚、無事にこの場所を探り当てるとは……。どうやらお前を侮り過ぎていたらしい」


 狭い洞穴の中の奥側に『殿鬼』の姿をした『存在』が立ち、そして入り口には妖魔神の『神斗』が現れて、間に挟まれる形となった『シギン』は、そう静かに独り言ちるのであった――。


 ……

 ……

 ……

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