第1733話 天魔の命により集う、天従十二将

「あ、イツキ様。こんなところに居たんですね、探しましたよ!」


 イツキが新たな決意を抱いた時、そんな彼の姿を見つけたユウゲ達が、家の下から屋根を見上げながら声を掛けるのだった。


「ああ、少し色々と一人で考えたい事があったからな。よっと……」


 イツキはユウゲと傍に居るヤエの方に視線を向けてそう告げると、屋根から飛び降りるのだった。


「そうだったのですね。出来れば一声掛けて頂いてからにして欲しかったところです。なぁ?」


「はい。ここは安全そうに思えますが、それでもあの『妖魔山』の中なのですから……」


 ユウゲと共にイツキに苦言を呈するヤエだが、そのヤエのイツキに対する言葉遣いが、退魔組に居た頃よりは幾分柔らかなものになっていた。


 どうやらヤエもまたイツキの本性を垣間見た事で、退魔組の頭領補佐であった頃のままのイツキに対する接し方のままではまずいと考えたのだろう。


「ああ、悪かった。さて、それじゃもう少し中で呑み直すとするか。てかあの化け物連中もまだ呑んでやがるのか?」


「ええ、そのようです。すでにソフィ殿達は我々の数倍近い量を呑んでおりましたが、全く勢いが衰える様子がありません……」


「まじでアイツらは色んな意味で化け物だな……」


 この『ノックス』の世界の酒は非常に度数が高く、酒豪と呼ばれる者達であっても、これだけの時間飲み続けていれば、そのままぶっ倒れてもおかしくはない程なのであった。


 そうだというのに勢い衰えず、ユウゲ達の数倍の量を飲み続けているというのだから、イツキが化け物と揶揄するのも理解が出来るといえた。


「まぁいいや。実際に近くであのヌーの野郎の様子でも見てやるとするか……ん?」


 そう言って笑みを浮かべたイツキだが、唐突に遠くの方の空から迫ってくる『魔力』を感知して、そちらの方に視線を向け始める。


「どうなさいましたか? イツキ様……、むっ!?」 


 そしてイツキから少し遅れてユウゲが同じ方角の空を見上げる。


「?」


 あくまでイツキやユウゲ達は『魔力』を感知したにすぎず、その目に映る視界には見えてこない為に、二人が唐突に空を見上げた事でつられてそちらを見たが、魔力感知が行えないヤエには何も分からずに首を傾げるだけだった。


「おい、ユウゲ。直ぐにバケモン共に知らせに戻るぞ」


「は、はい! この数はやばいです……!」


 空を見上げていた二人はそう言うと、直ぐに踵を返してソフィ達の居る玉稿の家へと走り出すのだった。


「ま、待ってください! 一体何が……」


 ヤエはわけも分からず走り出した二人の背中を慌てて追いかけるのであった。


 ……

 ……

 ……


 時は少しだけ遡り、ソフィ達が集落で宴会を始める少し前に、天狗の『帝楽智ていらくち』の元に華親の手の者である『目』と呼ばれる見張りの天狗から報告が届いた。


 麓の方から山を登ってきていた人間数名と、その人間を偵察する鬼人族が着かず離れずの位置を保ちながら鬼人族の集落がある縄張りを移動しているという報告であった。


 当然その麓から登ってきている者とはソフィ達の事であり、赤い狩衣を着ているエイジやゲンロクの姿も確認されており、帝楽智は直ぐにこの者達がイダラマの言っていた足止めの対象だろうとアタリをつけたのだった。


「直ぐに華親と『天従十二将てんじゅうじゅうにしょう』たちに集まるように伝えろ!」


「「ははっ!!」」


 天魔の帝楽智の命令に報告を行った上位天狗たちは、直ぐに副頭領の『華親かしん』と天従十二将達に知らせに向かうのだった。


「こんなにも早く人間達が姿を見せるとは……。これはやはりあのイダラマとかいう人間に繋がりを持つ者で間違いあるまい……」


 帝楽智は忌々しいとばかりに舌打ちをしながらも『式』の契約に逆らえず、仕方ないとばかりに命令に従い天狗の幹部達全員を集めるのだった。


 天魔の号令で集められた『天従十二将てんじゅうじゅうにしょう』。


 それぞれが妖魔ランク『8』から『8.5』に到達している大天狗達である。


 天魔が決めた側近達でそれぞれ十二体の天狗達は『無叡むえい』『行悪ぎょうあく』『徳果とくか』『具現ぐげん』『歪完ゆがん』『触心しょくしん』『学得がくとく』『甘青かんせい』『煩欲ぼんよく』『邪未じゃみ』『担臨たんりん』『寿天じゅてん』という名で呼ばれている。


 当然にこの『天従十二将』の中でも明確に序列は存在しており、その基準となるのは力の強さや年齢などが加味された上で天魔によって定められている。


 それなりに若い大天狗達である『無叡』『行悪』『徳果』『具現』『歪完』の五体は『前従五玄孫ぜんじゅうごやしゃご』と呼ばれる序列名を冠してこの五体は同列として扱われている。


 次にその五体の天狗達より『呪法じゅほう』の力が強力な者達で、この『触心』『学得』の二体は『中従二孫ちゅうじゅうにそん』と呼ばれる序列名を冠しており、こちらの両名が『前従五玄孫ぜんじゅうごやしゃご』よりくらいが上の二体とされている。


 更にその『中従二孫ちゅうじゅうにそん』の触心と学得の二名より位が高いのが、大天狗の『甘青』『煩欲』『邪未』で、こちらの序列名を『後従三子ごじゅうさんし』と呼ばれている。


 そして最後に『担臨』『寿天』の二体は『世来二親せらいにしん』と呼ばれる序列名を冠していて、現時点で『天魔てんま』と『華親かしん』を除く天狗の最大勢力の座に居る大天狗である。


 大天狗とされる者達の中でも『前従五玄孫』たちは、その全員が妖魔ランク『8』。


 次に『中従二孫』の両名が妖魔ランク『8』に達していると言われており、その上の序列に居る『後従三子』である『甘青』『煩欲』『邪未』の三体は、限りなく『8.5』に近い天狗達である。


 最後の『世来二親』の序列名を冠する『担臨』と『寿天』は、妖魔ランクでいえば『9』に限りなく近い者達だが、それでも区分扱いは『8.5』の範疇に収まっている。


 しかしこの妖魔ランクという指標は、あくまで妖魔召士達が位置付けた物であり、実際の戦闘においては『後従三子』までの『8.5』の者達までならば、多少は前後する可能性も否めない。


 ――だが、最後の『世来二親せらいにしん』の序列名を冠する『担臨』と『寿天』だけは、まず間違いなく現存する他の天狗達と序列が入れ替わることがない、まさに天狗の最上の位置に近しい強さを誇る者達であった。

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