第1716話 かつて妖魔山で三大妖魔と呼ばれた種族たち

 この『妖魔山』には昔から山に大きな影響力を持った三種族が存在している。


 その種族達とは『天狗』『妖狐』『鬼人』の三種族であり、山に生きる妖魔達から『三大妖魔』と呼ばれていた。


『三大妖魔』の中でも戦闘能力の高さがピカイチであったのが鬼人達であり、力の強さや相手から身を守る固い皮膚に覆われたその防御力の高さが目立つ種族であった。


 昔から鬼人族は他の種族より数が多く、その数を活かした侵略によって数多の山に居る種族を従えていき、今日に至ってもまだその影響の名残が山に残されている程である。


 しかし実際には縄張り自体は未だに不可侵とされているが、現在はもう『三大魔族』と呼ばれるだけの力が鬼人族には残されていないのが実情であり、鵺や天狗に妖狐といった上位妖魔がもし攻め込もうと考えれば、鬼人達は苦戦を強いられてしまうだろう。


 その理由として『天狗』や『妖狐』に山の麓近くに生息していた『人間』達が、時代と共に『魔』の概念を少しずつ理解し始め、その各々の種族達が日増しに力をつけていったせいで、昔からずっと同じ戦い方を続けてきた鬼人達は、時代に取り残されてしまったからである。


 当然の事ながら昔とは違い、少しずつ山の勢力も変わっていき、三大妖魔筆頭とされていた『鬼人族』は二番目となり、三番目に数えられていき、今ではその他大勢の内の種族へとなり下がってしまっていた。


 しかし今でも自分達が山で一番強いのだという自尊心を持っており、子のうちから親にそう言い聞かせられて育ってきていた為に、不遜で荒々しい性格を持つ者がこの『鬼人』には非常に多かった。


 それでも決して鬼人達は物が分からない馬鹿達というわけでもないため、徐々に時代と共に他の種族が強くなっていくのを指をくわえて見ていたわけでもなく、同じように『オーラ』の技法を見真似で覚えていき、何とか近代では再び種族の位置も盛り返し始めていたのである。


 だが、そこにきて間の悪い事に『妖魔山』に生息する妖魔達からの襲撃を恐れた人間達が、山の麓からある時討伐退治に乗り出してきて、三大妖魔とされていた『鬼人族』を中心とした妖魔退治が行われてしまったのであった。


 他の三大妖魔と違って『魔』の概念の取り入れが遅れている鬼人達は退治されたり、望まぬ契約を結ばれて『式』にされて従わされてしまったりと、元々は種族の特徴とまでされていた数を大きく減らされてしまったのである。


 もちろんこれは現代ではなく、まだまだ近代といえる少し前の時代である為、かつての妖魔召士達の力量を考えれば鬼人達だけではなく、先に挙げたような鵺や妖狐、それに天狗でさえも妖魔召士達に封印されたりして、鬼人達と同様に数を減らされてはいた。減らされてはいたが、その数は鬼人達の方がはるかに上回っていたという話である。


 そんな背景もあってシギン達の代になる前には、鬼人族はかつての三大妖魔と呼ばれていた時代から比べても、その数を大きく減らす事となっていった。


 そんな折の現代と呼べる時代になった頃、当時の妖魔召士の長がシギンの代になり、彼らが『妖魔山』の『禁止区域』から戻るに際し、その長を務めていたシギンが居なくなった頃合いを見計らい、当時の鬼人族の長の反対を押し切って、とある一体の若い女の鬼人が行動を起こした。


 その若い女の鬼人は、かつての『三大妖魔』と呼ばれていた時代を取り戻そうと、彼女の好敵手でもあり、親しい友と呼べる一体の妖狐を味方につけて、勇猛果敢に行動を起こしたのである。


 ――それが、件の『妖魔団の乱』である。


 もちろんその若い女鬼人は、かつての栄光を取り戻そうとしていただけではなく、他の妖魔達と同じ人間達に多くの同胞を殺められたり、望まぬ契約を強いられて連れていかれたりと、他種族と同様に恨みを共有していたという事もあって、人間達に報復を行うために自ら旗頭となって行動を起こしたのであった。


 ――その若い女の鬼人の名は『紅羽くれは』。


 かつては鬼人族の長を務めた三つ目の大鬼である『殿鬼でんき』の娘であり、先祖に『妖魔神』の『悟獄丸ごごくまる』を持つ、鬼人族の次代の長を担うと呼ばれていた鬼人であった。

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