第1710話 透過技法、魔力干渉領域

「こ、これがこやつの本当の魔力量なのか……っ!!」


 コウエンは目の前の可視化出来る程の王琳の禍々しい紫色の『魔力』を纏うところをみて、驚きの声をあげるのだった。


漏出サーチ』といった『魔法』がないこの世界では、明確に数値で測る事は出来ないが、それでもコウエン程の妖魔召士であれば『魔力感知』を行う事は出来る。


 そしてその王琳の『二色の併用』からなる『魔力』を見た事で、コウエンは自分と王琳の力量差を明確に理解する。


「すでに奴に勝てぬ事は分かってはおったが、こ、こんなにも差があるのならば、初めからワシに勝てる道理などなかったようだ……」


 全盛期の頃であっても目の前に居る『王琳おうりん』という九尾の狐には、足元にも及ばなかったであろう。そしてかつての四天王が、全員掛かりで奴に挑んだとしても、勝てるかどうかという程の差があるとコウエンは考えるのだった。


 これまでこのコウエンという妖魔召士が、その目で見てきた妖魔では、まず間違いなく『王琳』こそが、であった。


 ――そしてまず間違いなく『王琳』は、妖魔ランク『10』の存在であろう。


 しかしコウエンはその『王琳』の『青』と『金色』の二色が交ざり合うオーラを見て、最後に戦う相手に王琳を選んで良かったと、あの日の自分の選択は間違いではなかったとばかりに、この場で笑みを浮かべるのだった。


 この『禁止区域』内に妖魔ランク『10』の存在がどれほど居るかは分からないが、それでもコウエンはこの『王琳』の手でやられるのであれば、自分の生涯に納得がいくと改めて感じた。


「たとえワシは敗れようとも、この場で掠り傷の一つくらいはつけてやろうぞ!」


 そしてコウエンもまた、生涯最期となるであろう渾身の一撃を放つ為に、自らも最大限に『魔力』を高め始めるのだった。


「お前の覚悟を決めたその目が気に入った。お前がまだもう少し若ければ、強くなるまで見逃してやってもよかったが、その年ではもう期待は出来ぬだろう。残念だがこの場で始末させてもらう」


 そして先に『魔力』を高め終えたコウエンは、後先を考えずにその高めた全ての魔力を費やす形で『魔力波』を放って見せた。


 間違いなくそのコウエンの『魔力波』は、彼が全盛期の頃に有していた『魔力』と同規模の威力を誇っており、どうやら威力のみに焦点を絞った事で当時の自身の力の再現を可能としたようである。


「ほう……。最後の最後に自分が出来る最大限を発揮してみせたか。見事だ、よくやったぞ!」


 その『魔力波』を見た王琳は嬉しそうにそう告げると、彼もまた青い火をその『魔力波』に向けて放ち切るのだった。


 その青い火は『七耶咫なやた』が山の頂で『神斗』に向けて放ったものと同一であった為、どうやらこの火は妖狐としての力の一端なのだろう。


 七耶咫が放った時は複数の火であった為、弾幕攻撃と呼ぶに相応しい代物であったが、王琳の放った『隣火』と呼ばれるその青い火は、たった一発だけしか放たれていなかった。


 しかしその青い火の速度は決して侮れないもので、後から放たれた筈のその青い火の玉は、あっさりとコウエンの『魔力波』の元に辿り着くと、あっさりと小さな火の玉はコウエンの『魔力波』を呑み込んでいき、まるでその火の玉に燃料が与えられたかのように、勢いと速度が増してぐんぐんとその『隣火』はコウエンの元に向かっていく。


 迫りくる『隣火』に対してコウエンは、すでにもう大半の魔力を費やしてしまっていた為、二の矢と呼べる『魔力』を有する攻撃を行う事が出来ず、仕方なく軽減目的となる小さな『結界』を僅かに作り出すに留まった。


「ああ。いい機会だから、先程説明した『魔』の使い方というモノをこの場で証明してやろう」


 真っすぐにコウエンの元に向かっていく『隣火』を見ながら王琳は、静かに右手の親指を自分の首にあてると、首を切り落とすジェスチャーを行うように、すっと指を真横にスライドさせた。


 ――『透過』、魔力干渉。


 次の瞬間、コウエンの軽減を目的とした『結界』を『隣火』は擦り抜けると、コウエンの身体全身を青い火が呑み込み一気に爆発するかの如く、火は大きくなり炎のようになって大炎上を行こした。


「ぎ、ぎぃやあああっっ!!」


 コウエンは最期に大きな断末魔を上げると、すぐさま炎に焼かれて絶命してしまうのだった――。

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