第1703話 空間魔法に特化した理を生み出した者

「今の私の『魔力』は。お前程度の生半可な『魔』でどうにかできると思うな」


 そう言い放つシギンは、その真四角の赤い『結界』に閉ざされて動けない悟獄丸に向けて、新たな『魔』を行使する。


 ――次の瞬間、その『結界』の内側の空間に次々と『発動羅列』が表記されていく。


 そしてそれを見た悟獄丸は、何が行われているのかまでは理解をしていないが、可視化が出来る程に膨れ上がっていく『シギン』の『魔力』を見たことでこのままではマズいと判断したようで、どうにかしてその『結界』から逃れようと藻掻くように暴れ出した。


「くっ、舐めてんじゃねぇ……っ!」


 失われていない方の腕で思いきり肘打ちをしてみたり、足を使って蹴りを入れたりと、その強力な鬼人の力を用いて何とかして『結界』を壊そうとするが、シギンの本来の『魔力』で生み出された『結界』は想像以上に強固であったようで、最早その『結界』自身の内側に取り込まれてシギンの『魔』の影響下に置かれてしまっている悟獄丸ではどうする事も出来ない。


 腕力ではどうしようもないと理解した悟獄丸は、次に『魔』の技法である『透過』を用いて無理やりに『結界』を殴り飛ばそうとするが、そこでそのその暴れようと手や足を振り回す場所にあわせて、次々と『輝鏡ききょう』が出現を始めて、その『結界』の内側で音を立てながら『輝鏡』が『結界』の代わりに割られていく。


 そして一枚、また一枚と『輝鏡』が割れるたびに『悟獄丸』の『魔力』が鏡の中に封印されていき、やがて『透過』そのものが行えない程までに『魔力』までもが消失していった。 


「な、何だってんだ!? 鹿が今まで一切表舞台に出てこずにこの世界に居やがったってのかよ!」


 やがて出来る事を全て封じられたと理解した悟獄丸は、脂汗を流しながら必死に声を荒げて言葉を吐くのだった。


「神斗も言っていただろう? 『魔』という概念は非常に奥が深い。お前は『透過』だけを実用レベルにまで使えるようになれば、後は十分に自分の肉体の力だけでどうにでも出来ると考えていたようだが、相手が『魔』の領域に立つ者である以上、そのスペシャリストに対抗が出来る程に抜きん出ている『力』を持ち合わせてでもいない限り、決して『魔』の概念を行使する存在に勝てる道理はない」


 ――お前も透過には自信を持っていたようだが、この私の居る『魔』の領域に対抗しようというのであれば、にまで達しておくべきだったな。


 …………


 同じ『妖魔神』にして、同じように強さでも並ぶ程であったランク『10』である者同士の『神斗こうと』と『悟獄丸ごごくまる』。


 しかし神斗は自分の強さに磨きをかけるように、人間達が扱う『魔』から学ぶように『魔』の領域に身を置いて時間を割いて研鑽に励んだ。


 対する悟獄丸は最初こそ『神斗』より抜きん出た『力』を有していたが、すでに自身よりも強い者は居ないと判断して慢心を行い、人間たちが扱う『捉術』といった『魔』の概念を下に見て、あくまで『妖魔召士』達人間の使う『捉術』に対抗する術として『透過』だけに重きをおいた悟獄丸。


『魔』の概念というモノに価値を見出しはしているが、それでもその底の深さ故に必要ないと興味を薄れさせた者と、必要の有無ではなく、概念そのものに知識を追い求めた者。


 同じ概念に対して互いが定めた『目的』の場所は、少しばかり高低差があったようだ――。


 …………


 ――魔神域『時』魔法、『空間除外イェクス・クルード』。


 次の瞬間、悟獄丸の『魔力』だけではなく、手や足に胴体がいくつにも分割されるように離された後、全てが別々の『空間』で管理されるように封印された。


 ――そして最後にはシギンの赤い結界ごと、その悟獄丸の居た空間ごと切り取られるように、この世から消え去ってしまうのであった。


 そのシギンが放った『魔法』の効力は、同じ『空間除外イェクス・クルード』であっても神域の『時魔法タイム・マジック』までとは、比較にもならない緻密さであった――。

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