第1701話 妖魔神の悟獄丸VS妖魔召士のシギン

 妖魔神の悟獄丸と妖魔召士のシギンが、互いに『青』と『金色』の『二色の併用』を纏い戦闘態勢に入ったが、やはり先に動いたのは悟獄丸からだった。


「今度はさっきまでのようにはいかねぇぞ!」


 悟獄丸はそう口にしながら真っすぐにシギンに向かって飛び迫ってくる。彼はシギンの『蒙』という術によって身体的な弱体化が行われて尚、二色の併用オーラを纏う前の彼よりも速度を増しているようであった。


 確かに『二色の併用』を用いる前と、用いた後では『戦力値』や『魔力値』は雲泥の差ではあるが、それも加味してもシギンは『もう』を使えば、自身は『金色』だけで何とでもなると考えていた。


 だが、どうやらこの『妖魔神』は、そんなシギンの抱いていた認識を大きく逸脱する存在であったようで、本来ならばあっさりと終わらせられると考えていた状況が少しだけ変わってしまったようである。


「おらぁっ!!」


 悟獄丸は難なくシギンの間合いにまで入り込むと、そのまま右拳でシギンの顎を思いきり跳ね上げようと下から突き上げた。


 まるで先程の攻防のやり取りの焼き回しが行われて、シギンはその拳を再び障壁で防ぎきってみせる。


 悟獄丸は『二色の併用』を纏っている為に、先程までとは比較にもならない力の上昇を果たしてはいるが、それは『二色の併用』を纏い始めたシギンも同様である。


 二度目の攻防もやはり力関係は全く変わっていないように見える。


 ――否、術の影響を差し引けば『シギン』の方に分があった。


「ちっ! まだだ!」


 下から掬い上げた拳を防がれたと判断した悟獄丸が直ぐさま一歩退がって見せると、今度は左足を軸足に思いきり踏み込んでの腰を捻りながら右拳を前に突き出した。


 どうやらその踏み込みの一撃は体重も乗っていて、これまでより見た目からして破壊力がありそうだとシギンは判断したが、それでも自分の『障壁』で防ぎきれるだろうと、そのまま障壁で防御を行った後に隙だらけの悟獄丸に『捉術』によるカウンターを見舞おうと考えるのだった。


 しかしそこで速度の乗った右拳が、僅かに悟獄丸の『魔力』の色であろう紫色が纏われているのを視界に捉えたシギンは、予定していた『捉術』による反撃準備を取りやめると、思いきり首を横に捻るようにして悟獄丸の右拳の軌道から強引に逸らした。


 ――そしてその咄嗟の機転が、シギンの命を救った。


 それこそは一度目の攻防のやり取りの時にシギンが懸念を抱いたモノで、その攻撃は『透過』技法が織り交ぜられていたようであった。


「先程の掬い上げるように放った一撃は、この為の布石か悟獄丸!」


 きれいに『障壁』はそのまま残り、悟獄丸の拳の破壊力から生まれた風圧は、先程までシギンのあった首の位置に見事に殺傷能力を孕んだまま襲い掛かった。


 どうやら一度目の悟獄丸の下からのアッパーカットは『障壁』で防ぎきれるとシギンに判断させる為に、あえて『透過』を交ぜずにこれまで通りに放って見せたのだろう。


 そして反撃態勢を取らせて攻撃に気を取らせた後に、本命の今の右拳で決着をつけるつもりだったようだ。


「てめぇ、余程に戦闘慣れしてんな? 場数踏んでなけりゃあ、あんな状況から見て躱す何て出来ねぇぜ!」


 口でそう言い放った悟獄丸だが、その間にも今度は右足を軸にして左拳をフック気味に出して、無理やりに避けた状態で態勢が整っていない、シギンの首元を狙って真横に振り切ってくる。


 しかし今度はその悟獄丸の拳は『障壁』で弾かれるのだった。どうやら今の一撃に『透過』を交ぜなかったのだろう。


「全く、ただの脳筋ではないとは思っていたが、物理的な戦闘センスは神斗の比ではないようだ……」


 今度も『透過』が織り交ぜられているだろうと判断していたシギンは、またもや反撃態勢を取らずに防衛に手を回そうと『魔力』だけを手元に残していた為、再び目の前で拳を振りかぶって見せている悟獄丸に防御を意識させられてしまう。


「くっ!」


 『透過』技法がある以上、安易に『障壁』に頼りきるわけにもいかないシギンは、この殺傷能力の塊といえる『妖魔神』の拳に対して回避を優先せざるを得ない。


 シギンは舌打ち混じりにその拳を躱すと、今度こそ大きく後ろへ跳躍して悟獄丸から距離をとるのだった。


 たった一つ『透過』という技法を織り交ぜられただけで、やろうとしていた戦闘のリズムが狂わされた事を自覚したシギンは、この『悟獄丸』という『妖魔神』もまた、あの山の頂で戦った『魔』に傾倒された『神斗』と同様に、一筋縄ではいかない相手なのだと認識を改めるに至るのであった。

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