第1699話 妖魔召士シギンの力量

「当然だろうが! この世で一番ものを言うのは、他の奴らを黙らせる事が出来る程の圧倒的な『力』だ!」


 強引な話ではあるが、確かにこの『禁止区域』、延いては『妖魔山』の中では悟獄丸の話が摂理といっても過言ではない。


 この山に生息する妖魔達にはあらゆる種族が存在している。そしてその種族の中には数年、数十年という単位ではなく、それこそ目の前の悟獄丸などを含めれば、数百年から数千年とこの山で生き続けてきた者も居る。


 そんな数多く居る妖魔達の中には一癖も二癖もある種族も居て、揉めるような事があれば当然に会話だけで済む筈もなく、力で従わせようとする妖魔も居る事だろう。


 この妖魔山では争い自体をなくそうと考えた時、確かにこの悟獄丸の力こそがものを言うという考え方は的を射ている。郷に入っては郷に従えという事もあるが、人間の尺度でこの『禁止区域』に居るような妖魔達を測る事は間違っているだろうなとシギンは考えるのであった。


「まぁ、お前の言いたい事はよく分かった。別に私はお前がどういう考え方をしていようが構わぬ。だが、神斗と違ってお前は少しばかり扱いづらい。今後お前を生かしておいても人間達にとっては碌なことがなさそうだからな。悪いがやはり当初の予定通り、ここでお前を処理させてもらうとしよう」


 淡々とシギンが勝手に話を進めていくのを聴いていた悟獄丸は再び額に青筋を浮かべると、みるみる内に機嫌が悪くなっていった。


「さっきも言ったがよ、てめぇは一体何様のつもりなんだ? ちょっとばかり小細工が功を奏したからといって、俺の『力』を全て封じたつもりかよ? まぁ確かに普段通りには力が出せなくなっちまったみてぇだが、それでもお前一人を相手にするくらいどうってことはねぇぜ?」


 悟獄丸はそう言うと、再び『オーラ』を纏い始める。確かに『輝鏡ききょう』の影響を受けてはいるようだが、まだまだ部分的な『魔力』のみが封じられているだけであり、悟獄丸という妖魔の持つ総魔力値からみれば、先程の分だけでは、まだまだほんの僅かといえるような段階なのは間違いなさそうであった。


 そして先程とは違い、どうやらこの悟獄丸も『青』と『金色』の二色の併用を扱う事が出来るようで、纏わせているオーラが交ざり合うと、先程の『輝鏡』で封じる前よりも『魔力』が高まり始めていくのであった。


 シギンは今の悟獄丸から感じている威圧感から、まず間違いなく妖魔ランク『10』に達していると判断するのであった。


(まぁ、元よりある程度は分かっていた事ではあるが、私の『もう』や『輝鏡ききょう』で戦力を著しく制限されて尚、まだこの私にこれ程の威圧を感じさせるとはな。やはりランク『10』というのは伊達ではないな)


 シギンの『輝鏡ききょう』は障壁をすり抜けさせる為に、悟獄丸が透過を用いるだろうと考えての先読み対策だった為に、悟獄丸の力を封じる手立てとしてはそこまで効果があったわけではないが、もう一つの白い光で包ませた『もう』の方は明確に悟獄丸の戦力を低下させる為に用いた技法であった。


 すでにオーラで増強された『魔力』や総合値である『戦力値』に対して数値を下げるなどといった効果は期待できないが、それでも腕力にモノを言わせた物理力重視の悟獄丸の腕力を低下させる事は期待出来る。


 確かに技法を使う前よりも『二色の併用』の効力によって、悟獄丸の戦力値や魔力値は膨らんでいるが、それでも攻撃力に関しては『二色の併用』を纏う前の『瑠璃』の状態よりも下がっているだろう。


 つまりシギンの放った『蒙』によって悟獄丸の攻撃力は、障壁を壊す程までの威力を失っている筈であり、軽減させるという意味では効果が発揮されている筈である。


 ――シギンという男は妖魔召士組織に属する退魔士の歴史上で、最強と謂われた程の『最上位妖魔召士』である。


 その膨大な『魔力値』はあの『サイヨウ』を遥かに上回り、これまで妖魔召士達が編み出してきた全ての『捉術』を完璧に使いこなし、更には『エルシス』や『フルーフ』のように、独自で『ことわり』を生み出して『空間魔法』すらも編み出している。


 この妖魔召士『シギン』を相手にするという事は、すなわち一つの『魔』の概念の到達点と戦うという事と同義といえる。


 それは当然に『魔』全体の到達点と呼べる程までという事ではないが、間違いなく『透過』だけを突き詰めて到達点と自分の中で定めたであろう、同じ『妖魔召士』である『イダラマ』よりは『魔』の観点で先をいっている。


『青』と『金色』の二色の併用を纏い始めて、妖魔神として間違いなくランク『10』に達しているであろう『悟獄丸』であっても、これまでのように楽に相手をする事は出来ないだろう。


 それを証拠に『二色の併用』を纏い始めた悟獄丸は、まだオーラを纏ってすらいないシギンをその視界に捉えながらも、これまでのような雑で強引な攻撃を行っておらず、何処までが隙なのかを見定め始めている様子であった。


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