第1685話 似て非なる思想を抱く、魔の求道者たち
「君が何者なのかは分からないけれど、どうやら相当『魔』に精通している事は間違いなさそうだ。確かに君が指摘してみせた通り、私の『透過』技法の到達点は、相手が用いようとする『事象』に対しての『魔力』の干渉までだ。だけど先程の少年のように君をこの場から逃すつもりはないよ? もう一度見せてもらった以上は、次こそは阻止してみせる」
神斗の『透過』技法の到達点は、厳密にいえば相手が『放とうとする事象』に対する干渉ではなく、また相手が『放とうとする事象に対するモノへ送り込む魔力』に干渉するというモノでもない。
――いや、厳密には『魔力』に対しての干渉を行っている事は間違ってはいないのだが、然とする『魔力』に対してではなく、明確にこの『魔法』を使おうと考えて発動の際に生じる『魔力』に対しての干渉なのである。
つまりはその詠唱者の存在が持っている『魔力値』自体には何も干渉が出来ず、また先程のナニカが告げた通りにここから全体を見渡せない場所の『空間座標』そのものにも干渉が出来ない。
あくまで『事象を引き起こす為に消費される魔力』に干渉を行っている為、このナニカが『空間座標』をイジるイジらないに拘らず、この『空間魔法』でこの場から去ろうと構想を描き、実際にその為に『魔力』を用いようとするところへ『
一度目は神斗が告げた通り、初見であった為に『空間座標』そのものに意識を向けてしまったが、今度こそ神斗は飛んだ先の『空間座標』ではなく、このナニカ自身に対して『魔力』干渉を行い、事象そのものを瓦解させようというものであった。
「お主はやはり悟獄丸よりも私と相性が悪い。行おうとする『魔』の概念に絶対の自信を持ち、世界そのものが否定する『魔』の概念に独自の構築した理論で武装を行って因縁関係を形作り、強引に結果を提示する。まさしくお主はその寿命の長さも相まって『魔』を司る者としては、これ以上ない程に適しているといえる」
唐突に神斗を褒めるような言葉を口にしたそのナニカを見て、神斗は訝しそうに眉を寄せた。
「だがな神斗。いくら『魔』の適正を持っていようと、そして果てしない程の長い寿命を持っていようとも、お前の研究のやり方では、ある時を境に必ず頭打ちとなり停滞するだろう」
「どういう事だい……?」
「お主自身も気づいている事だろうが、この『魔』とは極めようとするには気が遠くなる程の年月が必要となる。そしてそれはお主のように一つの分野を突き詰めていても、決してそれだけではあらゆる分野に着手する者には決して敵う事はない」
「分からないな……。君は私と同レベルにまで『魔』の概念に対しての理解を抱いているモノだと思ったが、その考えだけは相容れない。確かに他分野の概念に全く手をつけないというのは論外だが、どの分野においても妥協をせずに一つの道を突き詰めた方が、中途半端に手を出すよりも良い結果を手に入れられる筈だろう?」
神斗は確かに『透過』技法に重きをおいた『魔』の研鑽を気が遠くなる程の年月を費やしてきたが、それでも他分野の概念に手を出してこなかったわけではない。
当然に基礎となる『魔力』を上昇させる研鑽を積み続けながら、基礎値を大きく上昇させる『青』のオーラ技法も上限となる5に到達点を迎えるまで研鑽は続けていたし、それを行うために必要な『魔力コントロール』に、他者との戦闘を考慮した『戦力値コントロール』。
更には先天性の贈り物である『金色』のオーラを利用した、独自に得た『青』と交ぜ合わせる『二色の併用』。その他一切の戦闘に必要となる『魔』を利用した技法の数々、ナニカに言われなくても『透過』程にはないにせよ、決して他の『魔』の分野において妥協などはしてこなかった。
神斗に対して『魔』の研鑽が足りないと言うのであれば、それこそ『魔』の概念に着手する存在の多くが、彼にまで辿り着いていないと断言が出来る程だろう。
この世界で学び得る事の出来る『魔』の概念、その全てを着手していると神斗は自負が出来る。
――しかしだからこそ、ナニカは神斗に対して、成長を自ずと狭めていると断言したのであった。
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