第1681話 妖魔神と崇められる所以

「お前から相当に憤慨している様子が伝わってくるが、どうやら先程の私の言葉が、存外に癇に障ったみたいだな。それはつまりお前が思っている以上に、自身が抱く『魔』の概念に自信がないという事の表れではないかな?」


 もう神斗は七耶咫に全く笑みを見せず、ただ無言で自身を覆うオーラを強め始めるのだった。


「やれやれ……。私は先程からこの少年の近くで戦闘を行う事の危うさをお前に伝えたつもりだったが、お前には無駄だったようだな。やる気を見せているところ悪いが、このまま山だけではなく、麓付近の町々にまで影響を出すわけにはいかないからな。このままこやつの放つ脅威を未然に防ぐために、この場から連れて行かせてもらうぞ」


「出来るモノならば、やってみるがよい」


 これまでとは明らかに神斗の口調が変わり、七耶咫の動きに合わせるが如く『魔力』を体現させるのだった。


 流石はこの世界で『魔』の概念を一番深いところまで至ったと自負している神斗だけはあり、二色の併用に対する『魔力コントロール』の緻密さは他に類を見ない程であり、更にはいつでも攻守を行える『魔力』の準備をすでに終えている。


 七尾の妖狐である『七耶咫なやた』の総魔力量から考えても、この場面で妖魔神の神斗に対して飽和攻撃を行う事は無駄であると七耶咫を操っている存在は考える。


 作戦の完遂目的としては、当然に脅威を放つ爆弾のような存在である今の『エヴィ』を回収して、この場から無事に脱する事にある。


 他にも妖魔山の頂に居るイダラマ達を悟獄丸から救出するという事も考えてはいるが、この神斗を相手にそこまでは望めないかもしれない。


 ――何故なら、想像以上に神斗の『魔』の概念の研究が進んでいたからであった。


 この『理』の存在しない世界では、見た事も聞いたこともない筈の『』を見た神斗は、初見で空間を操って距離を狭め縮めたという認識を正しく理解してみせていた。


 つまり『魔法』という概念を知らずとも、その主となる『魔』の部分において、彼は『空間魔法』に対しての対処法を用意出来ると自信を抱いたという事だろう。それだけ『魔』の概念においてのあらゆる研究に着手していると考えて相違ない筈である。


 本来であれば『ことわり』が存在しないこの世界において、別世界の『理』から生み出された『魔法』が展開されてしまえば、その未知なる効力に恐れてしまい、上手く対策が取れずに過剰に『防御』を優先しようとしてしまう事が予想出来る。


 それこそが『ことわり』から生み出された『魔法』が持つ優位性であり、いくら『魔』の対策が取れる大賢者のような存在であったとしても、見た事も聞いた事も感じた事もない『事象』においては、まず手傷を負わないように身の安全を優先してその『事象』の観察を行う。


 そうしなければ対策どころか、何が行われているかを理解せぬままに、手遅れになってしまう恐れがあるからである。


 だが、この『神斗』は『空間魔法』を見た直後、その場から離脱を図るような真似もせずに、堂々とその場に居座って挙句に戦闘態勢に入った。そこに悟獄丸のような不遜さは見受けられず、また見栄や虚仮脅しでもないと感じさせている。この『空間魔法』に対しての対策があると見て間違いないだろう。


 当初の目的であった隙をついての『空間魔法』で離れるといった考えを通すのは難しいと七耶咫は考えるのであった。


 七耶咫は望みが薄いと判断した時点から次の策を僅かな間に考え始めていくが、改めて神斗を厄介だと感じ取った。


 このオーラの併用によって生み出されている膨大な魔力量と、彼自身の絶対的な自信から生み出される対外的な圧力に加え、イダラマが用いた絶対防御といえる『透過』技法による『魔利薄過まりはくか』や、自身を完全に砂へと変えて質量による攻撃を完全に遮断するエヴィの『透過』技法を完全に無効化してみせる卓越したその『魔』の技術量。挙句に未知なる『力』である『空間魔法』さえ、全く彼は意に介していないのである。


 だが、馬鹿正直に真正面から戦おうとするならば、その『二色の併用』からなる殺傷能力の塊といえるような、質量攻撃が待っている。


(やれやれ、同じ』の存在であっても、悟獄丸の方がまだ与しやすいといえるな)


 七耶咫を操っている彼は『神斗』の事をランク10の存在と呼び、そして改めて『妖魔神』としてこの妖魔山に長きに渡って表舞台に君臨し続けている理由を理解するのであった。

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