第1606話 人形を操る大魔王
「そこで止まれ人間達よ!」
イダラマ達を見てそう言葉を掛けたのは、全身の毛が白く狼のような顔をしている人型の天狗であった。
声を掛けてきた天狗とは別に、まだ数体程の気配を感じ取った『コウエン』や『イダラマ』、それに『エヴィ』は視線を目の前の天狗に向けつつも、いつでも襲われてもいいように『魔力』や『オーラ』を纏い始める。
それに倣うように『アコウ』や『ウガマ』も刀に『青』を纏い始め、他のイダラマの護衛の退魔士や、コウエンの『同志』の『妖魔召士』達も『魔力』を自身に纏わせ始める。
先程までの和気藹々とした空気から一変、妖魔に声を掛けられた僅か数秒で彼らは、見事に戦闘態勢に入るのであった。
この辺は流石に戦闘経験豊富な『予備群』や『妖魔召士』、そして『大魔王』といえるだろう。
「気を付けるのだ麒麟児よ。目の前の『天狗』はそこまで大した事はないが、こやつらは数で群れて現れる。この場に姿を見せたという事は、他にも仲間が潜伏している事だろう」
「ああ、分かっているよ。すでにこの犬みたいな奴と同程度の『魔力』を持つ個体が周囲に三体程潜んでいる。それにあの崖の向こうにもこいつより一際高い『魔力』を有する変なのもいるね」
(小僧の言う通り、この場に潜伏しておる天狗の数も合っておる……。ここまで来るともう認めざるを得ぬな)
イダラマの忠告に見事に潜伏している妖魔の数まで口にしたエヴィに、コウエンは内心で流石だと感心するのであった。
「その身なりを見るにお主らは『妖魔召士』であろうが、此処をどこだか理解して足を踏み入れておるのか!」
ランク『3』からは人型を取れる妖魔だが、この目の前の人型の姿の天狗はどう見ても人間の姿には見えない。
どうやらこの天狗は、元からこの姿なのだろう。
しかし『アコウ』や『ウガマ』を含めたイダラマの護衛達は、目の前に居る『天狗』を脅威と見て構えを取り続けているのだが、もうイダラマやコウエンは目の前の『白狼天狗』を脅威とは見ていないようで、先程エヴィが告げた潜伏者以外に何か居ないかを探り始めるのだった。
「き、貴様ら……! 聞いてお……、っる!?」
自分を無視して辺りを探り始めた人間を目の当たりにした事で、天狗は舐めるなとばかりに声を張り上げようとしたが、そこでエヴィの殺意に天狗は言葉を失った。
「イダラマに爺さん、わざわざ探らなくても潜伏者をおびき寄せるいい手立てを思いついたよ」
「む?」
「何?」
エヴィがそう言葉を発した瞬間、天狗の後ろから突如として、おかっぱ頭の女型の人形が二体出現する。
「「――」」
カクンカクンと首を歪な角度に曲げながら、その人形はまるで人間のように笑おうと口角を吊り上げながら、必死に手を『天狗』の首に持っていこうとする。
「くっ! め、面妖な……!!」
天狗は迫ってくる人形二体の手から逃れようと、その場から羽を羽搏かせて浮き上がろうとする。
次の瞬間、飛び上がった天狗の更に頭上に、同じ顔をした別の人形が突如として現れる。
「逃すな」
エヴィがそう告げた瞬間、空に浮かんでいる人形の両手が、しっかりと天狗の首を掴み上げる。
「殺せ」
空に浮かんでいる人形の首を絞める手に力がこもり始めると、天狗はその掴んでいる人形の手を何とか引き剥がそうと藻掻き始める。
流石は高ランクの『天狗』なだけはあり、本気で抵抗を始めるとあっさりと人形の手を引き千切ってみせた。
だが、その決して短くない時間の間に、下に居た二体のおかっぱ頭の人形も空を飛んで、一斉に天狗の真横に到達する。
――そして。
「
カチ、カチ、カチと時計の秒針が動くような音が聞こえてくる。そして人形達の目が『金色』に輝いて明滅を始めて、やがては自爆を行うのだった。
どかんっ! という衝撃音が周囲に鳴り響くと同時、濛々と煙が立ちこめるとサラサラサラと砂が煙の中から地面へと流れ落ちていくのだった。
「い、一体何が……!?」
イダラマとコウエンを除いた他の者達が『天狗』と『人形』を視線で追っているが、コウエンとイダラマは同時に同じ場所に視線を送り、そして互いに同時に行動を開始した。
――僧全捉術、『
――僧全捉術、『
「げべっ!!」
「ごふっ……」
まず人形の手から救い出された『天狗』もろとも、もう一体の天狗ごとイダラマの捉術で首を『捉術』で刎ね飛ばすと、次にその近くに潜伏していた別の『天狗』達を三体程、同時にコウエンのイダラマと同じ『魔力』を放出する『捉術』によって両手を刎ね飛ばすのだった。
「お見事だね、二人とも。おかげで僕も楽が出来たよ!」
いつの間にかエヴィは、先程のおかっぱ頭の砂で出来た人形と同じモノを、自分の周囲に数十体規模で生み出しており、一斉爆発を行おうと準備をしていた。
どうやら目の前に居た天狗を餌に、他の潜伏している妖魔達を誘き出して、用意した人形達で迎撃を行おうとしていたのだろう。
しかしエヴィが手を出す間もなく『イダラマ』と『コウエン』の両名が他の妖魔達を片付けた事で、彼は何もする必要がなくなった事で、満面の笑みを浮かべながらイダラマ達に拍手を送るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます