第1495話 改革派の若い妖魔召士

「しかしエイジ殿! 今回行う調査が原因で『禁止区域』内の妖魔達が山を下りてくるような事態になればどうなさるおつもりか? これまで行わなかった事で平穏でいられたモノを下手に刺激する事で無用な危険を招きかねないと思われるが……!」


「確かにその可能性は否定できない。しかしそんな事を言い続けてきての現状なのだ。年々小生ら『妖魔召士』達は技術こそは先達が残し伝えてくれたおかげで上がってはいるが、組織全体を鑑みれば妖魔召士達の『魔力値』自体は安定性に欠けてきておる。先代の時代にはかつての封印を施した『妖魔召士』達の時代に近づき、中にはその全盛期に迫る勢い……いや、シギン様を思えば最高の世代であっただろう。しかしその先代でさえ『禁止区域』にはランク『9』の妖狐が居るという事しか情報を得る事が出来なかったのだ。だがそれでも『禁止区域』に挑もうとしたからこそ、その情報を得る事が出来た。我々『妖魔召士』の手から山の管理が離れてしまう事は非常に残念ではあるが、その管理先の『妖魔退魔師』組織もまた、先代の『妖魔召士』組織の時のように、過去最大の『戦力』が揃っている状況だ。だからこそ、今回その最高世代の『妖魔退魔師』組織と、我々が協力関係を今再び築き上げて『禁止区域』内の調査を行う事こそが、今後の未来の為に必要だと思うのだ!」


「そ、それならば……! ゲンロク様と『改革派』の幹部の皆様が『妖魔退魔師』組織と協力をすればよいではないですか! あ、貴方は一度『この『妖魔召士』の組織を見捨てて『はぐれ』となった身だ……! 『妖魔団の乱』という歴史に残る程の大変な異変が生じた後、我々の組織と『妖魔退魔師』組織は修正が不可能と思われる程の亀裂が入り、袂を分かつ事となった。その後の我々がどれだけ苦労をしたと思っておられるのだ!? ようやく落ち着きかけた頃に、再び『妖魔退魔師』と対立が起きて武力戦争にまで発展して……。わ、我々はどれだけ『上』の方々に振り回されたと思っておられるのだ!? そ、それを今更になって戻って来て、い、一体何様のつもり……」


 若い妖魔召士は喧嘩腰で口を荒げていたが、最後の方は自分で言ってて過去を思い出したのだろう。


 目に涙を溜め始めて涙声になっていた。


「もうよい……、オウギよ。暫定とはいっても一つの組織を束ねる長であるワシが不甲斐ないばかりに、若いお主らに苦労を掛けた事は申し訳なく思っている。全ては当代の組織を預かる身であったワシの所為なのだ。エイジを責めんでやってくれぬか?」


 そう言ってこの場に居る全ての『妖魔召士』の頂点に立っている筈のゲンロクは、一人の若い妖魔召士に対して両手を床について頭を下げるのだった。


「「げ、ゲンロク様……!!」」


 その姿を見た他の妖魔召士の重鎮達は、慌てて立ち上がってゲンロクに声を掛けるのだった。


「オウギよ、確かにお主の言う通り、小生は少し前までの『妖魔召士』組織に失望して自ら『はぐれ』となる事を選んだ身ではあるが、それでもこうして再び戻ってきたのには、今の『妖魔召士』組織であればもう一度やり直せると、この横に居るゲンロクやお主達を見て判断した為なのだ。一度この組織を離れておいて今更と思うかもしれないが、今のこの組織の為に小生は骨を埋める覚悟がある。今は信用してもらえないのも当然だろう。しかし一度だけ小生を信用してもらえないだろうか? 『妖魔山』の『禁止区域』の内側に居る者達がどのような『妖魔』達なのか、今後のこの『ノックス』の世界に生きる人間達の未来のために、小生達を調査に行かせてくれ!」


 そう言って今度はゲンロクの隣で『エイジ』もまた、


「え、エイジ殿……!」


 オウギと呼ばれた若い妖魔召士は、自分より遥か年上の『エイジ』の頭を下げる姿を見て、目を丸くして驚くのであった。


 このオウギという妖魔召士は、ソフィ達が前回里に来た時に見回りにきていた退魔士であり、あの時にエイジに対して裏で悪態をついていた男であった。


 今回の会合の中でオウギは、エイジに対して抱いていた不満をぶちまけてしまったが、今の彼はその事に激しく後悔をしていた。


(な、何と自分は子供であったのだろうか……! え、エイジ殿もゲンロク様も里や子供達の未来、それにこの世界に生きる者達の事を考えて調査を行おうとしていたというのに、よく知りもしないで『はぐれ』となったエイジ殿を槍玉にあげて情けない……!)


 オウギは両手をぎゅっと握りながら俯いて歯を食いしばっていたが、その顔をあげると今も頭を下げ続けていたエイジをみると口を開いた。


「も、申し訳ありませんでした!! 先程の私の発言をどうかお許しください!」


 オウギは怒鳴るように大きな声でそう告げると、顔を上げたエイジとゲンロクに改めて頭を下げるのだった。

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