第1494話 再結託に向けて

「お主も話があって我を呼んだだろうに、こちらの話を優先させてすまなかった。しかしお主のおかげで我も少しばかり考え方を変えようと思えた。感謝するぞシゲン殿」


 ソフィは一つの展望を見出させてくれたシゲンに、感謝を言葉にして口にするのであった。


「ここ最近はこういった手合いの話はしなくなったものなのでな。こちらこそ貴重な話をしてもらって為になったよソフィ殿。それに貴方がそれ程の強さを有しているのも長く生きて色々と経験をされているからだと理解して腑に落ちたような気分だ」


 ――そう言ってシゲンは笑みを浮かべる。


 どうやら彼がソフィに色々と聞きたかった話の一定の答えは、これまでの話の中で既に出た様子であった。


「だが、その上で『妖魔山』の『禁止区域』に同行してもらうに辺り、少し試させて欲しい事があるのだが、構わないだろうか?」


「もちろんだとも。何をするつもりかは分からぬが、我で良ければ何でも遠慮なく試してもらって構わぬぞ」


「では、不躾ぶしつけで悪いが……」


 シゲンの周囲に『青』と『金』の『二色のオーラ』が纏われた瞬間に、想像を絶する程の凶悪な『殺意』がソフィに向けて放たれるのであった――。


 ――次の瞬間、さながら戦場の中で『敵』と相対している状況の如く、この場の空気が変貌を遂げた。


 シゲンがオーラを纏って放った『殺意』は、生半可な存在であれば即座に昏倒してもおかしくない程の圧力が込められていた。


 どうやら彼は本当にソフィという存在が『妖魔山』の『禁止区域』に入るに値する存在かを直接確かめるつもりなのだろう。


 ――しかし。


「うむ。我も長く生きてきたが、これ程までの『殺意』を受けた事は記憶にない程だな」


「……」


 シゲンの殺意の込められた視線を真っ向から受け止めながら、平然と言葉を口にするソフィを彼は数秒程見つめていたが、やがてその視線を切ると出していた『殺意』も消すのであった。


「ふふっ。やはり貴方はが思った通りの存在で間違いはないようだ。すまなかった、ソフィ殿。突然の無礼を許してくれ」


 この部屋でソフィと二人きりで話を始めてから幾度となく、彼は自分の事を『』ではなく『』と呼んでいる。


 どうやらソフィの強さに対して総長シゲンは全幅の信頼をおいたようで、取り繕うのをやめた様子であった。


 ――もう彼ははこれ以降はないだろう。


 大魔王ソフィの強さを自分の信頼する副総長ミスズや、他の『最高幹部』と同じように扱う事に決めたようであった。


「それではソフィ殿。これから向かう『妖魔山』の調査の同行の件、改めてよろしく頼む」


 そう言ってシゲンは小さなテーブルを挟んだ、ソファーの向かいに居るソフィの方へと手を伸ばして握手を求めると、その差し出された手をソフィも握り、軽く頷いて見せるのだった――。


 ……

 ……

 ……


 ソフィとシゲンが改めて『妖魔山』の『禁止区域』で協力関係を結ぶ話を行っている頃、その『妖魔山』の『禁止区域』の調査をシゲンやソフィ達と共同で行う予定の『ゲンロク』達もまた、きたるべく調査の日に備えて『ゲンロク』と『エイジ』は、現在の里に居る多くの『改革派』の妖魔召士達を招集して話し合いが行われていた。


「ではかねてから説明を行っていた通り、このワシと隣に居るエイジの両名が『妖魔退魔師』組織のシゲン殿やミスズ殿達と共に『妖魔山』の『禁止区域』の調査に向かう。その間はこの里の事はお主達に任せる。他の隠れ里についてはこれまで通り『改革派』の同志達に任せてある故、お主らはこれまで通りにこの里で何かあれば対処にあたってもらう」


 ゲンロクに付き従ってこの里に居る『改革派』の妖魔召士達は、ゲンロクの言葉に大きく頷くのであった。


「げ、ゲンロク様! ほ、本当に宜しいのでしょうか? これまで歴代の『妖魔召士』組織の長達が守り抜いてきた『妖魔山』の管理を他組織に移すだけではなく、禁忌とされている『禁止区域』にまで手を伸ばす事は、許されざる行為だと思うのですが……」


 若い妖魔召士が立ち上がってそう言うと、他の年配の妖魔召士達が窘めようと口を開きかけたが、そこで『エイジ』が窘めようとしていた男達を制止するように視線を向けると、その妖魔召士達は直ぐに姿勢を正して『エイジ』に頷くのであった。


「お主の気持ちはよく理解が出来る。私も同じ気持ちを抱いてこの里に、ゲンロクの元に忠告を行いに戻ってきたのだからな。だが『妖魔山』の調査を行うというのは決して悪い事ばかりではないのだ。我々は『禁止区域』の内側の事を知ろうともせずに、これまで日々を過ごしてきた。それは下手に『妖魔山』の内部に立ち入る事で、これまでは『妖魔山』から出てこなかったランク『9』以上の妖魔達が、その姿を見せる事になるのではないかと、他の妖魔達、あの『妖魔団の乱』の時のように、高ランクの妖魔達が徒党を組んで襲って来るのではないかと懸念を抱いたからに他ならなかったからだ……」


 若い妖魔召士だけではなく、この場に居る全妖魔召士に、隣に居る『妖魔召士』組織の暫定の長であったゲンロクも静かにエイジの言葉に耳を傾けていた。


「だが、このまま『妖魔山』に立ち入らなければ安全だという保証は、彼ら『妖魔退魔師』達が言うように何処にもないのだ。これまでは偶然にも『禁止区域』内から高ランクの妖魔が山から下りてはこなかっただけかもしれないし、もしかすると我々が安全だと思い込んで油断をしている時を狙い、妖魔達は機を窺っているのかもしれないのだ。ミスズ殿達も告げていたが、今回はあくまで『妖魔山』の『禁止区域』の調査を行うだけだ。何も本腰を入れて討伐を行うわけではない。何か一つでも今後の役に立つような情報を得る事だけでも有意義な結果を残せるだろう。何も知らない状況というのが本当は一番怖い状態なのだという事を改めて主らにも理解をしてもらいたいのだ」


 エイジの話す内容の言葉には説得力があった為、他の妖魔召士達も頷きを見せていたが、質問を行った若い妖魔召士だけはまだ納得が言っていない様子で、眉を寄せながら再びエイジに向けて口を開くのだった。

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