第1488話 最強の大魔王を再評価する、最恐の大魔王

「まぁてめぇが封印していた『絶殲アナイアレイト』とかいう『魔法』を使った理由は理解はしたが、流石にあの『死の結界アブソ・マギア・フィールド』を突破するような連中は現れねぇだろう……と、思えるがな」


 ヌーはソフィの放った『絶殲アナイアレイト』の一発目でさえ、同じく『魔神級』に到達しているであろう『ヌー』が放つ『闇の閃日ダーク・アナラービ・フォス』の威力を大きく上回っていた事だろう。


 しかしそれでも一発目の『絶殲アナイアレイト』は『死の結界アブソ・マギア・フィールド』によってその全てが細分化されて完全消滅させられたのである。


 それはつまり大魔王ヌーがどれだけ本気になってもやはり『死の結界アブソ・マギア・フィールド』を突破する事は出来ないという事の証左であり、それをヌー自身が突破出来ないと自覚させられている。


 ヌーはその事を念頭に入れて『死の結界アブソ・マギア・フィールド』を突破出来る者はいないだろうと断言をしたかったところではあるのだが、そこで『エイジ』という一人の人間の『妖魔召士』の存在を思い出した為に、断言ではなくと言い直したのであった。


(確かにあのエイジって野郎であれば、奴の『魔力値』そのものを考えれば、少しくらいは可能性はあるだろうが……。それでもやはりこの世界に『ことわり』がない以上はソフィの『死の結界アブソ・マギア・フィールド』を突破する事は難しいと思うがな)


 『魔神級』の中でも『魔力』に秀でている者であれば、その魔力値の高さだけで『ことわり』在りきの『超越魔法』や『神域魔法』に負けないくらいの『魔力圧』や『魔力波』だけで掻き消して見せたり出来るが、流石にそれが同じ『魔神級』が使う『ことわり』有りの『魔法』を押し切る事は難しいのである。


 だが、例えば同じ『魔神級』であっても『ソフィ』が、現段階の『ヌー』に対して全力で『魔力』を放出して『魔力圧』や『魔力波』を放ったとすれば、受け手側の『ヌー』が如何に『ことわり』有りの『魔法』を使ったとしても押し切られてしまう事だろう。


 分かりやすくいえば差があり過ぎれば『ことわり』などを用いる『魔法』を使わなくとも、持ち前の『魔力』だけで何とかなってしまうという事である。


 しかし流石に『エイジ』程の『妖魔召士』の存在でも『ソフィ』の『魔力吸収の地アブソ・マギア・フィールド』を『魔力』だけでどうにか出来るとはヌーは思えなかったようである。


「うむ。その為に二つの『魔力吸収の地アブソ・マギア・フィールド』を同時に一つの場所に展開しておるのだからな。我としては突破出来る者が現れてくれた方が楽しめるが、シゲン殿やミスズ殿の事を考えればそれは願ってはいかぬ事であろうな」


 クックックとソフィは見る者が見れば邪悪にも見える笑いを浮かべるのだった。


「さて、それでは我は『シゲン』殿のところへ行くとするか。セルバスよ、悪いが少しの間はヌーの様子を見てやってくれ」


「は、はい! この馬鹿の事は俺がよく見ておきますから、安心してください」


「ちっ! てめぇに言われたらしまいだな」


 セルバスに馬鹿と言われてムッとした顔を浮かべながら悪態をつくヌーであった。


「クックック。それでは頼んだぞ」


 ソフィはそう言い残して部屋を出ていくのであった。


 …………


「くっ……!」


 どうやら相当に我慢をしていたのだろう。


 ソフィがこの場から居なくなった瞬間に、ヌーは苦しそうな表情を浮かべて頭を押さえるのだった。


 額からは汗が噴き出しており、今にも意識を失いそうなヌーに、慌ててテアとセルバスが近くに寄っていくのであった。


「――!」(ヌー、大丈夫か!」


「本当に大丈夫かよ。しかしまさかお前程の奴がよ、今更『漏出サーチ』でドジを踏むとは思わなかったぞ」


「仕方ねぇだろうが……。あの『絶殲アナイアレイト』とかいう『魔法』を放つ直前のあの野郎の姿を見て、?」


「え……?」


 含みのある言い方をするヌーに、一体何の事だとばかりに疑問を訴えかけるような声が漏れ出るセルバスであった。


「アイツの前では死んでも言いたくねぇが、俺は野郎の黒い羽根を生やして『魔法』を放とうと態勢に入ったあの状態を見た時、身体が、。勘違いするなよ? びびったってわけじゃねぇんだ。お前も……、お前も世界を『支配』出来る程の力を有する『魔族』なら、ソフィの姿を見て何も感じなかったわけはないだろう?」


「そ、そりゃ、もちろんだ……。男だったら旦那のあの姿を見て心が震えねぇわけがないだろ。俺も『煌聖の教団こうせいきょうだん』の幹部として色々な奴を見てきたが、旦那は他の『大魔王』とは全く違う……。本当の『魔王』と呼ぶに相応しい姿だった。これまでの感情を抜きにしても、を感じたぜ」


「ちっ……! 認めたくはねぇが『九大魔王』の連中が、雁首揃えて大魔王『ソフィ』に全幅の信頼を持って付き従う理由が確かに分かる気がしやがる。あの野郎が『死の結界アブソ・マギア・フィールド』に向けて『魔法』を放ちやがった瞬間だった。俺はアイツの真剣な目を見た時に時が止まったように感じちまったんだ。これから何をするのか、それが気になって気が付いたら『漏出サーチ』を使っちまっていた。それも魔力コントロールをするのが遅れる程にまで夢中になってな……。本当に、本当にあの瞬間、


 ――その結果がこのザマだとヌーは、再び舌打ちをしながら悪態をつくのであった。


 大魔王ヌーはこれまでの客観的な目線でソフィを評価したのではなく『大魔王ソフィ』という『世界』を束ねる『魔王』を目の前で感じて、本当の意味で『』だとであった――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る