第1487話 どう足掻いても絶望

「色々と突っ込みが追いつかないんですけど、旦那がさっき使ったその『絶殲アナイアレイト』と同じくらいの威力を二歳から三歳くらいの頃には、もう使ってたって事なんですか……?」


「その頃の我は『基本研鑽演義きほんけんさんえんぎ』など知る由もなかったからな。当然に『青』や『紅』などは使えなかったが、その代わりに生まれた時にはもう『金色のオーラ』を纏えてはいたと思う。確かその当時の我の『魔力』でもさっきの形態から放った『絶殲アナイアレイト』とほぼ同程度の威力は出せていた筈だ。何せあの頃は『魔力コントロール』を覚えるまでは一切の手加減が出来なかったから、実際はどうであったかは定かではないがな」


(さ、三歳で『金色のオーラ』を纏ってさっきの『魔神』の張った『聖域結界』を粉々にする程の威力の『魔法』を使っていただって……? だ、旦那は本当に一体何者なのだ!?)


 驚愕に目を丸くしているセルバスの横で、ヌーもまた思案を続けていた。


(俺でさえ『金色のオーラ』を自分の意志で纏えるようになったのは五歳くらいの頃だ。その時であっても『神域魔法』はおろか、俺は『終焉の炎エンドオブフレイム』を何とか覚えて『魔王領域』になれたかどうかってところだが……。こいつはすでに生まれた時から『金色のオーラ』を纏い、三歳になる頃には『魔神』の『結界』を粉砕出来るほどの魔力量を有して、そして『魔力コントロール』を使いこなし始めていたってのかよ……)


 本来であれば『魔王領域』に五歳で至る『ヌー』もとんでもなく凄い事であり、それだけではなく『魔力コントロール』をモノにするには『魔法』を覚える事よりも遥かに難易度は高いために、そこから数百年から数千年はかかるものなのである。


 元々の『魔力』が高かった為に『魔法』の威力は桁違いだったという話はよく聞く話ではあるが、ソフィの場合は少しばかりそのよく聞く話の範疇におさまるような話ではないのであった。


 ――下手をすれば、もしもという仮定の話ではあるが、ソフィが『』に染まっている存在であったのであれば、僅か三歳という年齢で『』と判断されて、幼子の頃のソフィに対して『魔神』が処理を行う為に現世に出現していた可能性もあったという話なのである。


「お前がそれだけ長い期間もの間、ずっと封印をしていた『絶殲アナイアレイト』とやらを『死の結界アブソ・マギア・フィールド』に使おうと考えた理由は何だ?」


 そこで思案を続けていたヌーは、ここにきて『死の結界アブソ・マギア・フィールド』の事に関する話に戻すのであった。


「当然それは『牢』の中に居るヒュウガ殿達を救い出そうとする一味や一派の数を懸念して、あのイツキ殿と同等、もしくはそれ以上の『魔力』を有する存在が複数人現れて、一斉にこの場に襲撃をした時を仮定して使ったのだ。それが二回目に放った『絶殲アナイアレイト』というわけだ」


 どうやらソフィは『ヒュウガ一派』というモノがどれくらいの規模で、どれくらいの数が居るのかを理解していない為に、この前戦った『イツキ』を指標にしたらしく、その『イツキ』クラスの『妖魔召士』が襲撃にきたと仮定して、一斉にその妖魔召士達が『魔力圧』や『魔力波』を放った時の威力を推定でこれくらいだろうと判断したのが先程の『絶殲アナイアレイト』二発分だったとソフィは考えたようである。


「もちろん我の読みが甘く、もっと強さが上の存在が居るかもしれないが、その時の為に従来通りの『魔力吸収の地アブソ・マギア・フィールド』を同時に展開したのだ。これでもしそういった存在が現れたとしても、直接我の元に『魔力』の情報が伝わってくる。その時は我が『高等移動呪文アポイント』を用いて直ぐに駆けつければよい」


 実に楽しみだと告げて、ソフィは嬉しそうに口角を吊り上げるのだった――。


 ――もし襲撃を考えているモノが本当に居たとすれば、その者達は絶望するだろう。


 この大魔王ソフィはむしろそういった存在の出現を心待ちにしているために、苦労してその『結界』を壊せば今度は絶大なる期待感を抱いて出現する『』を相手にしなければならないのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る