第1321話 エルシスと同じ二色の併用

 ヒノエは怒りに満ちた目で『イツキ』を睨みつけるが、頭の中では冷静に『サノスケ』が言っていた言葉を思い出していたのであった。


 サノスケは『イツキ』という『退魔組』の頭領補佐の男を『煌鴟梟こうしきょう』の初代の頭だと言っていたが、その男は『金色』の眩い湯気を使って、かつての『妖魔団の乱』の頭領であった鬼人女王『紅羽くれは』を倒したと嘯いていた。


 ヒノエはそれを全て信じたわけではなかったが、自分達『妖魔退魔師』は『』や『』という自身に青色の湯気のようなものを纏わせられる技法を扱える。


 つまり自分達と同様に『イツキ』という男も『金色』という自分達の知り得ない隠された『技法』を扱える可能性は多いにあると考えていたヒノエだった。そしてどうやらその考えは的を得ていたらしい。


(私の組の隊士達を一斉に地面に叩きつけた技をこれまで私は、この目で一度も見た事はないが、あの技にかかった者達が一人も残らずに意識を失わされた事を省みても、奴は『退魔組』の退魔士程度の筈が無い。本当に『紅羽』を倒したかどうかまでは分からねぇが、どう考えてもランクが『6』以下の妖魔にやられるようなタマではないな)


 どうやら眉唾ばかりの話でもないらしいと考えたヒノエは、脅威と認めた目の前の退魔士と、これからどう戦おうかと考えを少しずつ戦闘方面へと移行させていこうとしたのだが――。


 ――そこで更にヒノエの思考が上塗りさせられるのだった。


 ヒノエは後ろから無視が出来ない程の威圧感を突然に感じ取って、絶対に視線を外せないであろう筈の『イツキ』から何と視線を外して振り返ってしまうのであった。


 そしてヒノエはその背後の『本能で無視が出来ないと感じさせられた存在』の顔を見て、全身に震えが走るのであった。


 更にはヒノエだけではなく、一瞬で『一組』の『妖魔退魔師』の幹部複数人を無力化させた『イツキ』もまたソフィの方に意識を向けさせられた。


「なんだ……。は?」


 ――ゆっくりとソフィは前に歩き始めていく。


 ヒノエは背後からゆっくりと自分を追い抜いて、イツキに近づいていくソフィに何も声を掛けられず、ただ単に視線で彼の後を追いかける事しか出来なかった。


 そして会話が出来る程に近づいたかと思うと、ソフィはイツキに話し掛けた。


「お主は『』のようだが、先程の『青』との併用は自らが独自に考案して併用させたのか?」


 ソフィの言っている『金色』と『青』の二色の併用は、単なる『紅』と『青』の『二色の併用』ではない――。


 目の前で使用をしてみせた『人間』が行ったのは、この世界でヌーが到達した『』と同レベルと呼べる程の『』なのである。


 彼が生粋の『人間』であるからこそ『二色の併用』になってしまったが、もし彼が『魔族』であったならば、既に先程の『天色』とこの世界で呼ばれている『鮮やかな青』が使用出来ている時点で『三色併用』も使用が可能である状態であろう。


 ――今のソフィの目の前に居る人間は、あの大賢者『エルシス』が僅か数十秒程しか体現を可能と出来なかった新たな形の『二色の併用』だったのである。


 既にソフィの目の前に居る男は魔力の消費が関係しているのか、すでに『二色の併用』を解除してしまっているが、あの『妖魔退魔師』達を無力化させた、あの一瞬だけはこの男の『魔力』は


 つまりこの目の前の男もまた『』に到達している人間で間違いはないだろう。


 そしてソフィに話し掛けられたその男は、今まで告げられた内容の意味を考えていたようだが、そこでようやく口を開くのだった。


「さあ、どうだろうな? 自分の持つ切り札をわざわざ教える馬鹿は居ないだろう。知りたいのならば、お前も俺に何か有意義になるような話を持ってこい。そしたら俺も教えてやらないこともないぞ?」


 そう言って目の前の男は、ソフィに不敵な笑みを向けるのだった。


「ソフィ殿! その男から離れるんだ! そいつの実力はいまいち分からねぇが、最低でも私の組に居る隊士達をあっさりと倒してみせた程の奴だ! 危険だから早くそこか……ら」


 ヒノエがソフィに危険を知らせようとしたが、最後までその言葉を紡ぐ事が出来なかった。


 ――そのソフィもまた、先程相手が纏っていた『金色』と『天色』のからであった。


 ……

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