第1306話 副総長ミスズによるイツキという存在の考察

「『煌鴟梟こうしきょう』の創設者であった『イツキ』という男が、ヒュウガ殿にとって重要性の高い存在だという事はよく分かりました。そしてヒノエ組長もよくやってくれましたね。コウゾウが苦労して捕らえた者達を牢から出したと聞かされた時は、一体どういうつもりかと考えさせられましたが『煌鴟梟こうしきょう』の幹部だった男から直接情報を得られるように、この場に連れてきて頂けたことは大変感謝していますよ」


 『煌鴟梟こうしきょう』の話をする前と今とでは別人のようになったミスズから、感謝の言葉を告げられたヒノエは少したじろぎながらも首を縦に振るのだった。


 そして逆にヒノエの後ろに居るサノスケは、今後このミスズという妖魔退魔師の副総長から色々と尋問を受けることになるのだろうと考えて、そのときのことを想像して重圧で脂汗を流し始めるのであった。


「ええ。しかし私がこいつを牢から出すに値すると感じた情報は他にもあるんですよ。こいつはさっき告げた通り『煌鴟梟こうしきょう』の幹部だったらしいんですがね。コイツの他にも『ミヤジ』とかいう幹部と、現在の『煌鴟梟こうしきょう』を取り纏めていた『トウジ』とかいう男も同じ牢に入れられていた筈なんですが、どうやらその両名共に私が旅籠町に着いた時には姿がありませんでした。それでコイツから情報を聞き出したところ、どうやらヒュウガ殿がこの二人を連れ出して『退魔組』に向かわせようとしていたそうなのです」


「それは何のために? ヒュウガ殿が『退魔組』に向かうことは理解が出来ますが、わざわざ『煌鴟梟こうしきょう』の者を連れ出す理由が分かりませんが」


 先程の話で『イツキ』という男が有能だということは理解したミスズだが、それならばヒュウガが自分でイツキを迎えにいけばいいだけの話で、わざわざ『煌鴟梟こうしきょう』の人間達を牢から連れ出す必要性が感じられなかった。


「どうやらこのイツキという男は余程に曲者のようなんですよ。コイツの口振りでは、どうやらあのヒュウガ殿でも持て余していたようでして『煌鴟梟こうしきょう』の幹部と現在のボスを連れ出したのも『イツキ』って男を説得する材料に使おうとでもしたんでしょう」


 ここまでのヒノエの話を聞いたシゲンもミスズもまた、腑に落ちない様子を見せるのであった。


 イツキという男が『煌鴟梟こうしきょう』という侮れない組織を作り出した一点は確かに評価が出来ることだとは思えたが、それでもイツキという個人は単なる人間に過ぎない。しかしヒュウガは『妖魔召士』組織の中でも最高幹部と呼べる位置に居た実力を伴った『妖魔召士』であり、それに加えて『退魔組』は『妖魔召士』の下部組織である。


 立場的に見ても『退魔組』の頭領である『サテツ』や『イツキ』は組織の立場上、従わざるを得ないのは間違いない筈である。


(自分の志を現実に体現させた『煌鴟梟こうしきょう』という組織を作り出した割に、あっさりと他人にその組織の長の立場を譲ったり、退魔組に入った癖に妖魔召士に従順というわけでもない。イツキとかいう者のことを考えれば考える程、飄々としていてよく分からない。その癖わざわざ『ヒュウガ』殿はそのイツキといかいう男に自分の一派に迎え入れるために、牢から『煌鴟梟こうしきょう』のイツキに近しいと思われる男達を連れ出したという。ヒュウガ殿は余程にイツキという男を買っているようだが、その理由は何? 単なる支援者や今後の一派の参謀に利用としているわけではないのか? あらゆる影響力を持っている人間を集めた彼を利用するのではなく、ヒュウガ殿はそれ以前に彼自身に何かを見出している? 他にも何かイツキという人間には秘密が隠されているのでしょうか?)


 今ミスズの脳内ではイツキという男に対しての思案が、常人では考えられない程の速度で行われていた。


 世界に対して影響力を有しようと構想を描いて実際に行動を起こして思惑を成功させられる力量を有しており、更にはそれを表立って行わずに秘密裏に世界を裏から牛耳るように成功させた人物。


 そしてそんな結社というべき『影響力』を持つ要人達を束ねる位置についておきながら、あっさりと別の人間にその座を譲り渡せる胆力を持つ人物。


 更に理由は分からないが『妖魔召士』の傘下組織の『退魔組』に入り込んでいたかと思えば『妖魔召士』を離れたとはいっても『妖魔召士』組織でNo.2であったヒュウガ殿に目されて新たに一派に迎え入れようとされる程の人物。


 イツキという男のことを考えれば考える程、ここで見失わせてはいけない人物だとミスズの中で考えられていった。


(一体ヒュウガ殿はどういう意識でイツキという男を手に入れようと考えているのだろうか。確かに『妖魔召士』という組織の後ろ盾を失ったことで『影響力』や『タニマチ』が必要だという事は分かるが、決してそれだけでは無いだろうと私の勘が告げている。もっと直接的にイツキという男を味方にしたい理由があるように思える)


 ミスズがそんな風に考えていると、再びヒノエが口を開いた。


「それともう一つ。これはあまりにも内容が眉唾すぎて、報告するかどうかすら迷った話なんですが……」


 そう前置きをしたヒノエの口から『旅籠町』でサノスケと取引を行った時の内容が語られていくのであった。


 ――それはイツキという男が、過去に『妖魔団の乱』で団長であった鬼人女王『紅羽くれは』に勝利したという話であった。

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