第1301話 信じられない程にご満悦な大魔王

 これまでの『青』とは別のいわば細分化された『青』を使う事でメリットの他に時間を要するというデメリットが発生していたようだが、どうやらヌーが新たに発見したオーラの練度の組み合わせの『比率』を変えることでメリットを大きく全面的に押し出せた上に、デメリットの分を大幅に縮小させるに至ったようである。


(こやつもまた『フルーフ』や『エルシス』のような天才と呼べる存在なのだろうな」


 ソフィは改めてヌーを評価するのだった。


 『フルーフ』や『エルシス』は無から新たに『ことわり』を生み出す程の『魔』に関しての大天才であるが、このヌーという男はそれらとは少しベクトルが違うが、用意された素材をそのまま使うのではなく、自分がよりその素材を使いやすいモノへと改良を施すことに長けているようである。


 フルーフやエルシス達と目の前に居るヌーの決定的に違うところは、彼らの扱う『魔』の構築された総合的な情報が、あくまでその生み出した『魔』を扱えるに至った魔族達であれば全員が全員扱えるように、分かりやすくそして効率よく『素材』を世に送り出すが、このヌーの場合は、あくまで自分の使いやすいようにアレンジしているだけに過ぎず、彼自身が内容を理解出来ればそれでいいように出来ているために、他の魔族がヌーの考案した概念を真似ようとして細部の部分で何か分からないことが表面化したとしても、それをヌーが説明できるかどうかはまた別問題なのである。


 だからこそヌーのひらめきは大変優れているものではあるのだが、それを世間一般の大衆向けに『研究論文』として提出するような、それこそ彼が分析や考察した内容を客観的に補完しながら、自分の意見を取りまとめて世に出すような真似は決して出来ない。


 つまり彼が提唱した『論』に質疑応答という形で、他者が理解を深めようとしても絶対に上手くはいかないことは明白であるだろう。これはあくまでヌーは自分が理解出来るように、用意された素材にメスをいれながら『改良』を行い、より独自の『改善』へと繋がる研究論を提唱しているに過ぎないのである。


 早い話がヌーの論じる言葉の端々を二、三口分を耳にしただけで、直ぐにピンとくるような知識を携えている者達でなければ、提唱した結論に対して共感を得ることはまず不可能であるということである。


 そしてこの場に居る『ソフィ』は過去に自分が自ら経験してきたことの知識と、自分ひとりでは結論にまで至らなかった内容をこのヌーという男の提唱した内容物によって上手くピースが交ざって、綺麗に一つの絵として完成させてもらえていた。


 大魔王ソフィは『三色併用』という『力』をすでに数千年前の時点。それこそヌーが生まれる前から独自に会得するに至っている。


 だが、彼もまた『フルーフ』や『エルシス』とは違い、自分の手にしている『技法』に関しては七割から八割程までしか理解に及んでおらず、今回の物事に関しても『そういったモノなのだろう』という結論に至ることで、どうしてそうなっているのかまでは考えられても、それを証明する手立てまでを生み出せていなかった。


 その点で関していえばだが、自分にしか理解出来ないにしても『ヌー』の方が『ソフィ』よりも『研鑽の到達点』としてを鑑みれば数歩先をいっていると言っても過言ではないだろう。


 基盤となるモノを生み出すフルーフやエルシスに、与えられた素材を自分が理解出来るようになるまで試すヌーという魔族。そして物事の本質を理解出来てはいないが、会得をしたその時から瞬時に優れた感性で思い通りに自分のモノにするソフィという存在。


 ――各々が決して他者には簡単には真似出来ない大魔王達であった。


「これまで練度というモノは、より効率的に『力』を増幅させるものだという認識で世界は動いていたのだがな。まさか増幅目的以外にこの世界で新たに『青』の細分化されたモノを得た後に、何千年前に会得するに至った技法が役立つとは思わなかった。本当に何が役立つか分からないものだな。いやはや、やはりお主はなかなかに大したものだな」


 ソフィがそう言うとヌーは大満足といった表情を浮かべたかと思えば、急に凄い勢いでテアの方を振り返って、恐ろしい程の満面の笑みでテアを見るのだった。


「!?」


 ヌー達が話をしている内容が途中からついていけなくなったテアは、他の考えている者達の邪魔にならない程度に口笛を吹いて静かに楽しんでいたところに、突然のヌーの不気味な笑顔。それも普段絶対に見せてくる事のない表情をテアだけに見せつけられたため、彼女は脂汗を流しながら恐れ慄くように目を丸くして後退るのだった。


 どうやらヌーは余程ソフィという化け物に、自分の価値というモノを理解してもらえた事が嬉しかったのだろう。


「ふ、ふんっ! まぁどんなものでも自分の役に立たないと直ぐに決めつけて放置しないことが、今後何か別のモノを使う時に役立つという事の証明だな? 他にも色々思いついたらてめぇらにも教えてやるよ。てめぇらの頭じゃ一生思いつかないような知識をくれてやるから、ありがたく受け取るんだな低能共が!」


 傍から見ていても上機嫌に見える程に、ヌーは笑みを浮かべてそう告げるのだった。

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