第1271話 気にかかる言葉

「あ、ああ。そうだった『朱火あけび』は妖狐の方だった! そ、それで? そのイツキは何故その『紅羽くれは』と戦う事になったんだ?」


 まさか本当にピタリと名前を言い当てられるとは思わなかったヒノエは、少しどもりながら話の先を促し始めるのだった。


「ああ……。イツキ様も最初からその『紅羽』って鬼人と戦ってたわけじゃなく、最初は妖魔団の別の妖魔がイツキ様に襲い掛かってきたらしいんだ。それで元々は戦うつもりはなかったイツキ様もやられるわけにはいかずに抵抗を見せて、その襲ってきた妖魔を返り討ちにしたらしくてな。その時にその『紅羽』って奴らの親玉が現れたらしい」


 サノスケが話をしているのを黙って観察をしながら聞いていたヒノエだが、話の端々にらしい、らしいと言っているのが気に掛かりはするが、それはコイツの幹部の仲間だった奴からの人伝で聞かされたのが原因なのだろうし、どうにもこの場で考えた嘘や作り話をしているようには聞こえなかった。


(人から聞かされた内容を喋っているとばかりに誇張している部分が多いのは気になるが、逆にそれが現実味を帯びていて更には辻褄も合っているときたもんだ。こいつ自身が嘘を吐いているわけじゃなくて、その話をした仲間が話を盛っているか、それともそもそもイツキって野郎が嘘を言ってる可能性もあるか?)


 この段階では本当なのか嘘なのか結論に至らないヒノエではあったが、それはつまり簡単にはバレない話をこの男がヒノエに対して行っているというのは事実な事である為、まだ聞く価値は十分にあるとヒノエは結論付けて、そのまま話を打ち切るような真似をせずに、このままもう少し耳を傾ける事にするのだった。


「その親玉の『紅羽』って妖魔は、アンタの言う通り相当に強かったみたいで、俺達の知る妖魔とはまた違った化け物だったみたいだ。ミヤジが聞かせてくれたんだが、どうやらイツキ様も旗色が悪いと気づいて、その場から逃げ出そうとした程だったらしい」


(ま、そりゃ当然だわな。むしろ鬼人女王と同じ場に居合わせて『妖魔召士』でも無い、たかが一介の『退魔士』がだ)


「ところがその場にイツキ様を助けようと妖魔召士が、自身の護衛を連れ立って相手の妖魔の前に立ち塞がったようなのだ」


「ほう」


(実際に妖魔団の首領と戦って見事討伐したと言われているのは『サイヨウ』殿だった筈だ。つまりこの男の話が本当であるならば、この時に助けに入った妖魔召士というのは『サイヨウ」殿で間違いないだろうな)


 後は上手く逃げ延びられたという話だろうと予測立てたヒノエだが、この後更に信じられない言葉を耳にするのだった。


「だが、イツキ様はそこで妖魔召士を護衛にしていた妖魔退魔師とやらに興味を持たれたらしく、何やら少しの間その妖魔退魔師と言葉を交わした後に、再びイツキ様がその妖魔団の首領と戦う事になって見事に勝利したとミヤジはイツキ様に聞かされたらしい」


「何で勝ち目がないと一回は認めた『紅羽』と……。お前の言っている事は本筋がブレブレで何を信用していいのか分からねぇ」


「い、いや……! 俺も直接イツキ様から聞いたワケじゃねぇし、聞かされた内容をそのまま伝えただけだ。でも確かにイツキ様が妖魔団の首領を倒して見せて、その時の事がキッカケでイツキ様は『退魔組』の頭領補佐という地位に推薦されたようなんだ。それにヒュウガって奴やゲンロクって奴もこぞってイツキ様に、便宜を図っているようだとトウジ様が言っていたのを聞いたことがある」


「じゃあなんだ……? お前は『退魔士』がランク『6』だか『7』のそれもあれ程の規模の被害を出してみせた『妖魔団』を率いる首領を倒したのは『煌鴟梟こうしきょう』の犯罪者集団を束ねる、と言いたいわけか? 他人から聞いたにせよ、自分で言ってておかしい話だとは思わないのか? お前はじゃあその『イツキ』って奴を迎える為にヒュウガって野郎が自分達の配下を集めてケイノトへ向かったんだと本気で信じてるってことだな?」


「イツキ様が本当に妖魔団の首領を倒したのかどうかまでは知らないが、それを実際にイツキ様が口にしたことであるならば、イツキ様がボスだった頃の『煌鴟梟』に居た者達なら、俺やミヤジじゃなくても誰でも信用すると思うぜ? のイツキ様を知る奴なら誰でもな」


 断言をする男の言葉にヒノエは、ここまで信用させることが出来る『イツキ』って野郎も大したモンだと考えていたが、ふと思い返した拍子にヒノエは、サノスケの言葉が気にかかった。


? 湯気ってまさか私らの使うアレの事か? しかし『』じゃなく『』とは一体……?)


 サノスケの話す内容を最後まで聞いた後であっても、信じるに値するかと言われたら首を縦に振る事は出来なかったヒノエだが、最後の最後にサノスケが口にした『オーラ』の事に関しては、ヒノエは再考の余地は十分にある話だと思わせられるのであった――。


 ……

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