第1247話 ケイノト前にて、両組織の攻防

「ま、まずい! お前達、その場から早く下がれ!!」


「「!?」」


 妖魔退魔師の幹部揃いの『三組』の隊士達は、ランク『3』相当となっている巨躯の『幽鬼』に囲まれていたが、モノともせずに倒し続けていた。しかしそこでこの場の指揮官である『ヒサト』の声が響き渡ったかと思うと、慌てて命令通りに『幽鬼』との戦いを中断して飛び退さる。


「あっ――」


 しかし先頭で一番多くの妖魔を倒して見せていた『妖魔退魔師』の男は、ちょうど『幽鬼』の一体にトドメを刺すところであった為に、ヒサトの命令に対しての反応が遅れてしまったのであった。


 そして巨躯の『幽鬼』はぼんっという音と共に、妖魔退魔師の男にトドメを刺されて式札に戻されたのだが、その直後に倒したその『幽鬼』の背後に隠れ潜むように長い身体をくねらせるように地面を移動していた一体の『蛇』のように細長い体をした妖魔が、間髪入れずに『幽鬼』を倒した男に襲い掛かった。


 男は咄嗟に刀を盾にするように構えて、その『蛇』のような身体つきの妖魔から身を守ろうとしたのだが、その妖魔は刀ごとお構いなしに男を口から丸呑みするのであった。


 その『蛇』のような妖魔は、単なる蛇とは比べ物にならない程に大きく、前に居たのが『幽鬼』のような三メートル近い巨躯の妖魔が居なければ、そちらに意識を割いていたのは間違いが無かっただろう。


 しかしそんな大きな『蛇』のような身体の妖魔だが、流石に数十体も連なってブラインドの役割を果たしていた『幽鬼』の所為で目立つ事無く潜んでいたのであった。


「くっ……!!」


(消化される前に突き破ればまだ間に合うかもしれない!)


 先程キョウカ組長が戻って来るまで、誰一人として死なせずに居れば、無事に自分の役目を終えられると考えたばかりであったヒサトは、蛇のような魔物『野槌のづち』に呑み込まれた仲間を助けるために駆け出していく――。


「ふ、副組長!」


 仲間がやられた事と『野槌』の出現に気づけなかった『三組』の隊士達だったが、誰よりも早く一番遠くから『野槌』へ向けて走って行くヒサトを見て、一時的に避難しようとしていた彼らは直ぐに我に返って刀を握りしめる。


「ひ、ヒサト様に続け! あの化け物の腹を掻っ捌いて助けるんだ!!」


「そ、そうだ! 助けるんだ!!」


 隊士の一人がそう叫ぶと、周りの隊士達も『天色』のオーラを再び輝かせながら、一気に駆け出していく。


 腕を組んで最後尾でその様子を眺めていた『野槌』を使役した妖魔召士『ジンゼン』は、直ぐに近くに居る妖魔召士に視線を送ると、その妖魔召士もずっと『ジンゼン』の方を見ていたようで、直ぐに頷きを返した。


「さぁ、罠に飛び込んだ輩を一気に釣り上げろ!」


 ジンゼンと言葉無き会話を視線で行ったその『上位妖魔召士』はそう口に出すと、一斉に『魔力』の準備を終えていた妖魔召士達は数人掛かりで手印を結び始めた。


 ヒサトの耳にも相手の妖魔召士の声が入ってはきていたが、罠だと理解していながらも目の前で消化をされそうになっている仲間の隊士を助けようと必死に『野槌』に向かっていく。


 そして遂に『野槌』の目の前まで辿り着いたヒサトは『野槌』の細長い体の中央に『天色』を纏わせた刀で刺突する。


「しゃ、シャアアアッ!!!」


 恐るべき速度で迫って来たヒサトに刀をどてっ腹に突き刺された『野槌』は苦しみの声をあげながら、あわててその場から逃げ去ろうと身体をしならせて、地面を泳いでいくように動き始める。


「仲間を返せぇッッ!!」


 ヒサトは逃げる『野槌』を恐ろしい形相をしながら怒号をあげて『野槌』に向かって突っ込んでいき、その尻尾に刀を突き刺して無理矢理に動きを止めてみせた。


「シュルルルッッ!!」


 奇妙な呼吸音と共に『野槌』がのたうち回ろうとするが、尻尾ごと刀で地面に突き刺されている為にそれ以上は動けない。


 ヒサトは『野槌』の動きを止めた後に、即座に地面に顔をこすりつけて苦しんでいる『野槌』の口元まで近づいたかと思うと、何とそのまま野槌の口を両手ががばっと開けたかと思うと、自ら中へと入って行ってしまうのだった。


「ひ、ヒサトさまぁっ!?」


 当然近くまで迫って来ていた他の数人の隊士達は、妖魔の口の中に自分から入り込んでいった『副組長』の姿を見て驚きの声を上げるのだった。


 そしてそこで術式を完成させた各々の妖魔召士達が、一斉に術を展開するのであった。


 ……

 ……

 ……

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