第1219話 妖魔退魔師組織、三組組長のキョウカ

 ケイノトの町を南下すると平地とは別の草木が生い茂る湿地帯に続く道がある。ここを通れば『サカダイ』や『煌鴟梟こうしきょう』のアジトがある場所へは近道となるが、湿地帯の奥へと進むと深い森があり、当然妖魔も多く居る事からわざわざここを通って行くくらいならば、少し遠回りになるが普段通りに歩ける平地を利用するのが一般的である。


 ――そんな湿地帯を通って森へと急ぐ男が居た。

 それは元『煌鴟梟』のボスであった『トウジ』である。


 彼は町でミヤジたちと別れた後、そのまま無事『退魔組』に伝言を伝えられたという事を報告する為に、こまで来た道を通って、森の中にある『ケイノト』から一番近い洞穴を目指して湿地帯を進んでいく。この辺はまだ森の中ではない為にそこまで多く妖魔が出現する事はないが、それでも彼が平然と歩いているのには、自分の様子を逐一監視している『ヒュウガ』一派の妖魔召士達が居るだろうとアタリをつけていたのである。


 そしてその考えは当たっていて、ヒュウガから命じられた『ジンゼン』が『ケイノト』の町に入るまでの彼の監視と妖魔に襲われた時の為の護衛を行う為に、実際に数人の妖魔召士が付いて回っていた。


 当然その護衛の妖魔召士達は、こっそりと後ろからついて来ている野太刀を帯刀している小柄な女性の存在にも気付いて居る。彼女は妖魔召士達から『隻眼』と呼ばれている『妖魔退魔師』組織の最高幹部の一人『キョウカ』という女性であった。


 そのキョウカは湿地帯を歩いているトウジが、ヒュウガ一派と関係がある男だと察して、こうして『ケイノト』の門前からつけてきていたのであった


(やはり私の思った通りでしたね。ただの商人がこんな場所を通って行くのはおかしい。大方この先の森のどこか洞穴といった場所に『結界』を施してヒュウガ一派が隠れ潜んでいるのでしょう。このまま一度戻ってヒサト達に伝えて連れてきてもいいのだけど、もしこれが向こうの罠だったとすれば、こちらにヒサトや隊士達を連れて来る事でその間に、ヒュウガ一派がケイノトの町へと入り込んでいくかもしれない。あえてここは奴らの隠れている場所を私だけで突きとめたほうがいいでしょうね)


 彼女もこの湿地帯の先の森に潜伏しているであろうヒュウガや、その取り巻き達が『上位妖魔召士』だろうという事は理解している。しかしそれでもたった一人でその相手の根城を暴こうと強気で居られるのには、彼女には絶対的な自信があるからに他ならなかった。


 ――妖魔退魔師組織、最高幹部『キョウカ』。


 同じく最高幹部である一組の組長『ヒノエ』や二組の組長『スオウ』と並んで、このキョウカも妖魔退魔師組織内で総長『シゲン』に自分の組を持つ事を許された、所謂選ばれし最高幹部の三人の内の一人である。


 組に入れる金子などによる貢献度や、彼女の組に属する組員の数もそこまで多くは無い為に、常に組織の立場的な意味合いでは、三組の組長の座に居るキョウカだが、彼女の実力だけで見るならば一組組長のヒノエや、二組組長のスオウからも『実力は彼女の方が上だろう』と口を揃えて告げている程に認められている。


 彼女は今でこそ『隻眼』と呼ばれて対立する『妖魔召士』組織の者達から恐れられているが、彼女の目が両目とも健在であった頃は、副総長『ミスズ』と拮抗する程に強く、また技の練度だけであればそのミスズを凌ぐ程であった。』をから組の仲間を庇った時にその片目を失ってしまったが、その片目を失い隻眼となった今の状態で、現在の他の組長格である『ヒノエ』や『スオウ』と同程度の強さなのである。


 相手が中位以下の『妖魔召士』程度であれば、今でも束になってかかってきたところでキョウカの敵ではない。それは『上位妖魔召士』であっても変わらず、ランク6やランク7の妖魔が数体集まってきても、キョウカはあっさりと屠って見せるだろう。


 つまりキョウカにとってはたった一人であろうが『上位妖魔召士』程度であれば、あっさりと片をつけられるだろうと彼女自身が自信を持っているからこその強気の行動なのであった。

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