第1216話 他人事

「これまでの『妖魔召士』の組織とは違う形にはなってしまいますが、里に居る者達の多くの妖魔召士がヒュウガ様と一緒に組織を離反したそうですから……。今回の一件でサテツ様の存在を知らしめることで新たなヒュウガ様の組織で存在感を表せる事が出来るのではないでしょうか?」


「ん? おお、確かにそういう捉え方も出来るな。里の連中の多くがヒュウガ様の元に集ったという事は、当初の予定とほとんど変わらねぇか? はははは、そうだな。え? おい! 確かにお前の言う通りだな!」


 イツキは自分にとってはどうでもいい出世の話だが、サテツにとっては重要な事だったようで、豪快な笑い声をあげながら一人で盛り上がっていた。


 彼は単純な戦闘能力で言えばその膨大な『魔力』と、妖魔召士には珍しい剛力さも兼ね揃えており、立派に中位以上の妖魔召士と呼べる程の男なのだが、その大きすぎる自信の所為で他者を見下しすぎて協調性などは皆無であり、有事の戦闘の際には余りある有能性を見せつける事が出来るのだが、普段の彼は非常に扱いずらい存在の為に『妖魔召士』組織の幹部としては到底みられる事はなく、こうして新たに新設された妖魔召士になれない妖魔退魔士達の頭領として据え置かれている状態なのであった。


 しかしどうやら彼はその今の置かれている『退魔組』の頭領という立場には納得をしておらず、妖魔召士組織の幹部として大勢の人間を顎で使える程に偉くなりたいと野心を抱いているようで、ヒュウガに協力して妖魔召士組織の幹部にどうしてもなりたかったようである。


「よし、そうと決まったら早速ヒュウガ様の元へ案内しろ。どんな話であろうとヒュウガ様に協力しておけば間違いはなかろう? これでようやく俺も幹部になれてここに居る無能な連中の世話役ともオサラバだぜ」


 再び出世の好機を得たという事と、自分の補佐として務めているイツキの前だからというのもあるだろうが、彼は本音を隠そうともせずに大声で自分本位な事を言いながら気分を良くするのであった。


(こういうところでこいつは損しているんだよな。もう少しこいつに謙虚さを兼ね揃えていたら、今頃はなりたいなりたいと言っている幹部にもなれていただろうに)


 冷静にその細目の奥で、サテツという人間の分析を始めるイツキであった。


「ヒュウガ様の今居る所は何処なんだ? 妖魔召士の組織を抜けたのならば里にはもう当然居ないんだろう?」


「ええ、このケイノトから一番近い洞穴で数日は潜伏しているという話なんですが、町の外は妖魔退魔師の隊長格が警戒しているようなので、もしかすると場所を移しているかもしれません」


「ああ。ヒイラギ達の報告によると『隻眼』がうろついているというのは本当らしいな」


 サテツが『隻眼』と呼んでいるのは、ミヤジから報告があった例の隊長格の女性の事だろう。


「よし、次の報告に来た時に奴らの中から数人をその洞穴とやらに向かわせるとしよう」


「大丈夫ですかね? むしろ後をつけられてヒュウガ様の居場所が割れるといった事にならなければいいですが」


「お前は『上位退魔士じょうたいま』の中でも相当に『魔力』が少ないから分かんねぇだろうが、ヒイラギやクキ達の張る『結界』は相当に優秀なんだぞ? 結界だけなら俺ら『妖魔召士』と変わらねぇ程のモンを張れる。だからこそこの『ケイノト』の町の外でウロついている妖魔退魔師の連中に気づかれる事なくが出来てやがるんだからな」


(まぁ『結界』に関しては『特別退魔士とくたいま』の連中も侮れないモノがあるというのは『ユウゲ』を見ていても分かるが、それも絶対とは呼べないと思うがな。まぁ過信しすぎる事は良くない事ではあるが、確かに今はそれ以外に頼る方法もないか……。別に見つかったら見つかったで、俺だけでも姿を晦ませればいいだけだ)


 まるで他人事のようにそう考えるイツキだが、どちらにせよ今回の一件で完全に『退魔組』に興味を失くしたようである。そもそも彼にとっては隠れ蓑として便利な上に『妖魔召士』組織に身を寄せられて都合が良かっただけであって、この組織に対して愛着も執着をする気もそこまでなかったようであった。


「そうでしたね。流石『退』の皆さんです」


 心にもない事を口にしながら『サテツ』の機嫌を取る『イツキ』であった。

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