第1170話 気立てのいい魔族

 シゲンが案を出してミスズがその案を伝えるという普段の役目ではなく、頭を冷やす為に一時的に作戦から離れたミスズの為にシゲンが他の幹部達に指示を出していった。実際にシゲンが指示を出す姿をソフィは見ていたが、十分に司令官として問題無いと思える的確な指示で淀みなく伝えられていた。


(どうやらシゲン殿は、自身の強さだけでこの組織の総長になっているわけではなく、あのミスズ副総長に劣らぬ采配を取る事が出来る人間のようだな。これまで指示を出すミスズ殿が目立っておるようだったから、我はてっきり作戦を考えるのはミスズ殿の役割で、シゲン殿は出された案に決定を下してその作戦案の中で実力を振るう役割なのだと思っておったが、決してそういうわけでもないようだ)


 ソフィはミスズが出ていった後のシゲンが出した命令の一部を挙げると、最高幹部のヒノエという黒髪の女性の幹部に『ゲンロク』殿の居る里へ報告に行かせて、ゲンロク達の実際に口にする言葉と表情を持って帰れと告げていた。 


 そしてこの場に居たもう一人の最高幹部で、ソフィにも色々と世話を焼いてくれていたスオウ組長には『ケイノト』の町にどうやらもう一人居る組織の最高幹部の『キョウカ』という人間を派遣しているようで、その『キョウカ』と合流せよと告げていた。


 どうやら『旅籠町』を襲ったヒュウガが『ケイノト』の町にある『妖魔召士ようましょうし』の下部組織『退魔組』と接触を行う確率が高いと見たようである。


 総長シゲンが冒頭でソフィに告げたように、元々ここ『サカダイ』で捕らえた『妖魔召士ようましょうし』二名から『ヒュウガ』達の居場所を突き止めようとする事で、今はひとまず『妖魔山』の事は後回しにする予定となっていたが、そこに更に『予備群よびぐん』であるシグレが訪れて『コウゾウ』が『妖魔召士ようましょうし』とやらに襲われて戦死したと伝えられた事から、本格的に『妖魔山』ではなく『妖魔召士ようましょうし』の問題を重点的に取り組む事に決めたようだ。


 ソフィとしては一刻も早くエヴィを見つけたいところであり、シゲン達には『妖魔山』の方を優先してもらえた方が有難かったが、そもそもが『妖魔山』に入る為にはその『妖魔退魔師ようまたいまし』と共に行動を共にしなければ勝手にソフィ達が『妖魔山』に入ることは出来ない。


 それにここまで献身的にソフィに協力をしてくれたスオウ組長や、ソフィに協力を申し出てくれたミスズ殿、それに協力をしてくれると総長のシゲン殿が決断してくれたのだから、ここは我儘を通さずにしっかりと約束が果たされるのを待とうとソフィは考えるのであった。


 何より『妖魔山』の方には『妖魔退魔師ようまたいまし』の組織の者達や『イダラマ』達とは違う『妖魔召士ようましょうし』達が厳重に見張っているというのだから、もしエヴィ達が『妖魔山』に姿を見せる事があれば『妖魔退魔師ようまたいまし』にも報告が来る事だろう。もしその時に『エヴィ』が発見されたならば、その時に改めて行動を考えれば良いとそこまでソフィは考えて決断を下すのであった。


 しかし契約をしているヌーはまだいいが、セルバスに至っては完全に彼の事情に付き合わせてしまっている為に、心苦しく感じたソフィは、セルバスにもう少しだけ待って欲しいと謝罪の意味もかねて声を掛けようとしたのだが、逆にそのセルバスがソフィの元に駆け足で向かってきて口を開くのであった。


「だ、旦那! どうするんです? コウゾウって野郎はあのシグレ殿の元に居た、あの宿が立ち並ぶ町の元締めだった奴の事でしょう? 俺はシグレ殿が心配で仕方ないんですよ旦那……! 何か、俺達も協力出来る事はないんでしょうかね!?」


 今回のコウゾウ殿が襲われた問題を『妖魔退魔師ようまたいまし』組織が優先する以上、ソフィの第一目標である『エヴィ』との合流には、少し時間が掛かりそうだという事をセルバスに伝えようとしていたのだが、その伝えようとしていた相手から、むしろこの問題に何か俺達も協力に携われる事はないだろうかと相談してきた為、ソフィは呆然としながらセルバスの顔を見るのであった。


「ど、どうしましたか旦那? や、やっぱり駄目ですか? 出来れば本当にシグレ殿の力になってやりたいんです……が!」


 どうやらセルバスはスオウの報告を聞いて事情を理解した事で、ここに来た時のシグレが『妖魔召士』達に対して、あんな風に殺意を向けた理由を知った今、何とかしてあげたいう気持ちが芽生えたのだろう。その事を理解したソフィは、セルバスという男の気持ちを好ましく思い『コイツはいい奴だ』と思える部分が増えたのであった。


「クックック、そうだな。 我達もコウゾウ殿には大変世話になった事だし、出来る限りの事はしようではないか」


「は、はい!」


「……ふん」


 ソフィとセルバスの話を横で聞いていたヌーは、眉を寄せていたが別に文句はないようで、何も言ってはこなかった。どうやら彼も協力する事に反対をする気は無い様子であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る