第1163話 燻ぶる熱情に焼られた火
「素晴らしい。他者に対して行うところを見ていて躱せると思う事は珍しいことではないが、自身でそれを実行する事はとても難しい筈だ。それを初見のこの一回で完全に『回避』に成功させるとは思わなかった」
「ありがとうございます」
ソフィの近くまで歩いてくるとミスズは、ソフィの賞賛の言葉にお礼の言葉を口にするのだった。
本当にソフィはミスズに世辞を告げたわけではない。何故なら今ソフィが放った『
それこそ戦闘センスがずば抜けていて魔族の『
ヌーはそれを理解したからこそ『セルバス』だけではなく、彼もまたミスズという存在を大きく意識するようになるのであった。
「『
ソフィから『
「それは『音』ですね。貴方の『
「ふむ、音……、音か……」
確かに『
「常に戦闘に身を置いてきた我々が『
これは決して賞賛の言葉をくれたソフィに対して返した建前の言葉ではなく、実際に経験した事で口に出来たミスズの本音であった。
「そうか……。うむ、そうか。我の無理に付き合ってもらってすまなかったミスズ殿」
ミスズの言葉が本音だという事を理解出来たソフィは、何かを決心するように頷いた後にミスズに付き合ってもらった礼の意味を込めた言葉を贈るのだった。
(我の魔力を込めた『
それはこれまでよりもソフィの理想が込められた願望にまた一歩近づいた事を意味する。単純な戦闘だけでは決してなく、魔神に預けなければならない程に、持て余していたソフィの本来の魔力を使わざるを得ない程の世界が見つかったという事であった。
そしてそれはこのミスズとの一件で、彼の内に燻ぶっていた熱情に火が焼られた瞬間でもある。最強の大魔王が抱く願望の先、
(世界の崩壊が迫れば、否応なしに魔神達は姿を見せるだろう。もし我が全力で戦える相手が現れたその時は悪いがあやつだけではなく、その神々達にも手伝ってもらわねばならぬな)
それはソフィ自身もこれまで開放した事がない力であり、自らが完全にコントロールが出来なくなるだろうと予想が出来る最終形態の全力。その力を出すに値する相手が現れた事はなく、纏っただけでどれだけの甚大な被害を世界に及ぼす事になるか分からない途方もない力である。
試してみようとすら安易に思う事も赦されない力の源をソフィ自身が実感が出来る日が来るかもしれないという期待が、ソフィの心をこれ以上ない程に躍動させるのだった。
「「……」」
ソフィが何とか心を落ち着かせようと静かに息を吐いた瞬間。セルバスや死神であるテア、そして最恐と称された大魔王ヌーですら気づかないソフィの圧力を張本人の『第三形態』となった姿と戦った事のある筈のミスズと、腕を組んでずっとソフィの観察を続けていたシゲンの両名だけが気づき、そして互いに互いの目を交差させるに至るのであった。
……
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