第1156話 他者を試す性質

 ミスズはコウゾウが『特務とくむ』に所属する決断を書状で示してきた事で、普段よりも少し気分が高まっていたようである。何気なく言葉を出したミスズであったが、これまでとは明らかに違うソフィの様子。普段であれば直ぐに気づける事が出来ていたであろうが、ミスズはその事をまだ自覚出来ずに『妖魔退魔師ようまたいまし』による『妖魔召士ようましょうし』の『魔瞳まどう』の対策、その一端をコウゾウの成長させる前提の話としてソフィに説明を行い始めるのだった。


「確かにお主の言う通り、潜在能力は素晴らしいものがあるのかもしれないが『魔瞳まどう』に対抗するには少しばかり『魔力』に問題があるのではないか?」


 確かに『魔瞳まどう』は誰に対しても万能な力が働くというわけではないが、それでも他者を操るという一点に絞ればこれ程絶大なる技法はない。少なくとも大魔王ソフィや大魔王ヌー。それに潜在する力に目覚めつつあるシス。この三体の魔族の扱う『魔瞳まどう』に対抗するならばその魔力はどう少なく見積もっても『魔神級』領域に達していなければならない。いくら万能な力ではないとはいっても、『魔神級』以上の領域の戦いとなれば、『魔瞳まどう』に対抗出来なければ、勝負にはならないのが現実である。


 魔族の扱う『魔瞳まどう』と、人間達の扱う『魔瞳まどう』は細部は違うのかもしれないが、同じ『魔力』を用いて扱う技法である事は、過去に戦った『妖魔召士ようましょうし』の『チアキ』や、話をしてくれた『妖魔召士ようましょうし』のエイジを通してソフィにも理解が及んでいる。そうであるならば『魔瞳まどう』に対抗するには、その『魔瞳まどう』を扱う者の魔力を上回り、圧倒的な『魔』を用いて跳ね返す他、防ぎようがないのである。だからこそソフィは『煌鴟梟こうしきょう』のアジト内で『妖魔召士ようましょうし』チアキを相手に、第三形態へと変身を余儀なくされたのである。


 『魔瞳まどう』という技法がなければ、あのまま『第二形態』のままでも十分に戦えていたであろう。あくまで『妖魔召士ようましょうし』チアキの『魔力』のみに対し『第三形態』の『魔力』が必要だったのである。しかし逆をいえば『第三形態』にならなければ『妖魔召士ようましょうし』チアキの『魔瞳まどう』の呪縛から逃れる事は出来なかったことを意味している。何度も言うが『魔瞳まどう』というモノは決して、万能な力というわけではない。しかし一度掛けられてしまえば、その万能ではない技法が全能的な物へと変貌する。


 先程ミスズが『魔瞳まどう』は対抗しようと思えばいくらでも対処が出来ると告げていたが、これまでの経験を省みて出す結論は『魔瞳まどう』を扱う術者よりも『魔力』が上回らなければ、決して対抗は出来ないとソフィは考えているのであった。そして『魔瞳まどう』に対抗するには、コウゾウでは魔力に問題があるのではないかと、そう告げるソフィに少しだけミスズは驚くような表情を浮かべる。


「これは少し驚きましたね。ソフィ殿がそのような結論を出されますか」


 このミスズの発言の真意だが、決してソフィを馬鹿にしているわけではない。だが彼女が実際に戦いを通して、ランク『6』以下は有り得ないだろうと思わせた存在が『妖魔退魔師ようまたいまし』側の組織の下部組織である『予備群よびぐん』の多くの者達が出す結論と近しい言葉を出したソフィに対して、これは予想外だったと出した言葉であった。


「我は何か間違っているような事を述べただろうか? 相手に影響を与える『魔瞳まどう』に対抗するには、その術者よりも魔力を高める必要性がある。一度でも相手の術中の影響下に陥ればその時点で終わりではないか?」


 長年『アレルバレル』の世界の戦闘の場に身を置いて来たソフィにとって『金色の目ゴールド・アイ』の影響がどれ程に恐ろしい事か。これまで自身もその目で見てきている。彼自身が他者の金色の目に操られたという経験はないが、彼の友人である大魔王フルーフはこの『魔瞳まどう』の金色の目が原因で大賢者ミラが率いる『煌聖の教団こうせいきょうだん』や、現在は共に行動をしているヌーに長年、その身を捕われ続ける事となってしまったのである。


 『魔瞳まどう』に対して対抗する手段がなければ、その時点で勝負はついてしまう事は、誰が何と言っても間違いではないと断言が出来るソフィであった。


「ソフィ殿、前提条件が間違っていると私は申したいのですよ。最初に言った通り『魔瞳まどう』は脅威的である事に間違いはありません。貴方の仰る通り何の対策もせずに相手の術中の影響下に陥ってしまえば、その時点でいくら力や戦力値が相手より優れていようとも関係がなく敗れるでしょうね」


 そしてミスズはそこまで言葉にしながらも、そこで続きを言わずにソフィの目を見る。


(クックック、優れている人間というのはこうも皆、似ているモノだろうか?)


 ヒントを出しながらも安易に答えを告げず、相手に考えさせる事を良しとするやり口は、彼の人間の友人であった大賢者『エルシス』を彷彿とさせるのであった。


 こういうやり取りを好んで行う人間の心理とは、見事に正解に行き着く者に対してはとても気に入る傾向にあるが逆に見当違いな回答を行う事であっさりと興味を失くす。


 このミスズという人間は、どうやらそういった謎かけを用いて、相手を試しながらその人物像を自分の中で確立させていく人間なのだろう。


 先程ミスズは前提条件が間違っていると述べた。そして『妖魔召士ようましょうし』達が使う『魔瞳まどう』という技法に対しては脅威的であると口にしていた。つまりは侮れない攻撃手段だとミスズ自身が認めている上で、ソフィが先程告げた結論である魔瞳まどう』という脅威を払う手段があるという事だろう。


 しかし何千年と使われてきたこの『魔瞳まどう』に対抗する術が、相手の魔力を上回る以外に相殺する方法が、直ぐには思いつかないソフィであった。


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