第1106話 両組織が行う会合の乱入者

 ゲンロクの屋敷に居る『妖魔召士ようましょうし』や『妖魔退魔師ようまたいまし』達が集っている部屋に声が響き渡ったかと思うと、赤い狩衣を着た『妖魔召士ようましょうし』が姿を見せる。この者はゲンロクが暫定の長となる前、先代シギンの時代の『妖魔召士ようましょうし』だった。


「お、お前は、エイジ! 突然現れて、何のつもりだ!」


 ゲンロクはその場から立ち上がると、エイジに指を差しながら言葉を吐き出した。


「それはこちらの台詞だ、ゲンロク。これまで代々の『妖魔召士ようましょうし』が厳重に見張ってきた『妖魔山』の管理を『妖魔退魔師ようまたいまし』に任せるとは、一体どういうつもりだ!」


 エイジは勝手な事を行おうとしている『妖魔召士ようましょうし』の長であるゲンロクに、キネツグに対して見せた怒りよりも更に激しく激昂しているようであった。


「い、今更になって何も事情を知らぬ癖に、えらそうなことを抜かすなよエイジ! それにお前はもう部外者だろうが! ワシが決めた事に文句をつけるな」


 ゲンロクはエイジに指摘された瞬間は、痛い所を突かれたとばかりに顔を歪ませたが瞬時に顔を戻したかと思うと、それを言う資格はお前にはないとばかりに、エイジに言い返すのだった。


「確かにお前が当代の『妖魔召士ようましょうし』の代表の座についた以上、組織内の事については小生が口を出すつもりはなかった。だがゲンロクよ『。妖魔山は由緒正しき『妖魔召士ようましょうし』の管理する山だ『妖魔退魔師ようまたいまし』にその管理を移すと言うお主を黙って見過ごすわけにはいかぬ」


 ゲンロクが『妖魔召士ようましょうし』の組織の長となった時、そのやり方について納得が行かずに組織を抜けたエイジだが、今でも『妖魔召士ようましょうし』自体を辞めたわけではない。


 当代まで『妖魔召士ようましょうし』側が管理を受け継いできた妖魔山だが、その妖魔山の『禁止区域』内の恐ろしさをよく知るエイジは、同じく内情を知る筈のゲンロクが他組織である『妖魔退魔師ようまたいまし』に移す事はないとこれまで考えていたが、まさかその実情を知る筈のゲンロクが本当に譲り渡そうとしている事に、エイジは我慢がならなかったのであった。


 本音ではゲンロクも『妖魔退魔師ようまたいまし』に管理権を移したいわけではない。ゲンロク自身もエイジのように、禁止区域の調査を行うというシゲン達に当初こそ、決定を渋り認めようとしなかったがそれでも『妖魔退魔師ようまたいまし』と戦争を避ける為に必死に考えを巡らせて『禁止区域』の調査を行う時には、ゲンロク自身も『妖魔退魔師ようまたいまし』と共に、山に入り行動を共にしながら、内情を探るという事で同意したのである。


 それを今更になってこの場に現れて、正論だけを述べようとするエイジに、この時ばかりはにゲンロクは理解を示すのだった。


(※911話『妖魔召士の未来』)


 あの時のヒュウガと同じように、当事者でなければ言える正論を告げるエイジにゲンロクは、これまでの鬱憤を晴らすべく全てをぶつけようと口を開きかけたが、そのゲンロクの横から『妖魔退魔師ようまたいまし』のミスズが先に言葉を出すのだった。


「貴方は『妖魔召士ようましょうし』のエイジ殿ですね。今はもう組織を離れられて、個人で活動をなされていると聞いています。申し訳ないのですが、この場は『妖魔召士ようましょうし』と『妖魔退魔師ようまたいまし』の組織間での会合なので、ゲンロク殿の『妖魔召士ようましょうし』の組織以外の方は速やかにご退室を願います」


 ミスズは眼鏡をくいっとあげると笑みを浮かべながら『貴方には、この場での発言権はありません』とばかりに、この場に現れたエイジに告げるのであった。


「悪いがそれは出来ないな『妖魔退魔師ようまたいまし』組織の副総長『ミスズ』殿。確かに今回は『妖魔召士ようましょうし』側が全面的に悪いだろう。手を出したあの二人組に然るべき処罰を行い、そこに居る『妖魔召士ようましょうし』の長であるゲンロクに責任を追求するのは間違いではない」


 ミスズは事情を詳しく知っている様子のエイジに、結局何が言いたいのかを最後まで聞いてから反論をしようとばかりに、少しばかり身を引いて反論材料を模索しながらエイジの言葉に耳を傾ける。


「だが妖魔山の管理をそちらに渡すというだけは認められない。これは『妖魔召士ようましょうし』組織の事を考えての発言ではないのだ。妖魔山の入り口エリア周辺を好きに見て回り、調査を行うくらいならば、貴方がた『妖魔退魔師ようまたいまし』の好きになさればいいが『妖魔山』の最奥。またはその周辺の『禁止区域』と定められた場所には、代々の『妖魔召士ようましょうし』達。先代の『シギン』様の『結界』が張られてある。お主らがその禁止区域内に入るという事は、その結界は無意味になるだろう。これまで『妖魔召士ようましょうし』側の見張りでさえ、その禁止区域内には近づけなかった。しかしその禁止区域に入ろうというのであれば、これまでの甘い考えを全て捨てて真剣に事にあたらなければならなくなる。結界を張る事の出来る『妖魔召士ようましょうし』達が常に警戒にあたり、万が一に備えて管理を行わなければ妖魔達が山に降りて来る可能性も出る」


 前回の『ゲンロク』の話の内容と酷似していて、どうやら『守旧派』側とみられる『エイジ』もまた『改革派』の筆頭である『ゲンロク』と『妖魔山』の『禁止区域』に関しては根本の部分では同意見だということのようである。


「いくら『妖魔退魔師ようまたいまし』達が強いとはいっても『妖魔山』にどれ程の規模の数。どれ程のランクの妖魔が居るのかも分からない中で、数に限りのある『妖魔退魔師ようまたいまし』達が結界も張らずに四六時中見張る事が出来ないだろう? これは両方の組織だけの事ではなく、この世界に生きる人間達の事を考えて『妖魔山』の管理権は『妖魔召士ようましょうし』が受け持たなければならないのだ」


 エイジの言い分は前回の会合で、既にその多くをゲンロクが告げていた内容だった。しかし今回のエイジの言葉はそのゲンロクよりも殊更詳しく言及を行っていて『妖魔山』の管理権を渡すのが嫌だという単純な理由だけではなく、その『禁止区域』に入る前提で考えた場合のその具体的な対策案。そして『妖魔召士ようましょうし』が管理を行うに値する分かりやすい理由等を語るエイジに、反論材料を探す為に耳を傾けていたミスズや、総長シゲンもまた、そのエイジの話を詳しく聞いておきたいと考え始めるのだった。


 『妖魔退魔師ようまたいまし』副総長ミスズは、勿論組織の事を優先に考える人間ではあるが、第一優先は『妖魔召士ようましょうし』の多くの者達と同じくこの世界に生きる人間達なのである。


 その事を踏まえた上でミスズはちらりと、全ての決定権を持つシゲンに視線を送るのだった。

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