第1081話 深謀遠慮

 大勢の『妖魔退魔師ようまたいまし』の隊士達が直立不動を続けていたが、その中から一人の男が直ぐにミスズの元に走って来る。


「貴方はこの里を出た後に直ぐ、ケイノトへ向かい今回の事をキョウカに伝えなさい」


「はい、分かりました。副総長」


 目を覆い隠す程に長くボサボサな髪の毛をした男『ヒサト』は、副総長のミスズに声を掛けられて直ぐに頷いた。この男はキョウカ組の副組長の立場であり、普段はキョウカに付き従って行動をしているのだが、事前に告げられていた通り、今回の会合での内容をキョウカに伝える為にこの場に同席していた。


「……こほっ、こほっ……」


 ヒサトは見るからに顔色が悪く、その痩せこけた顔で咳払いをする姿はどこか身体を悪くしているのではないかと見る者が心配する程であるが、彼は『妖魔退魔師ようまたいまし』となってから数年間、ずっとこの状態である為、この場に居る者達はとくには声を掛ける真似はしなかった。


「そしてこの里には居なかった『妖魔召士ようましょうし』達。とくに最高幹部の一人であったヒュウガの姿をケイノトで見かけたならば、直ぐに知らせに戻ってきなさい。決してその場で交戦をするような事はせぬようにとキョウカに伝えるのです。もちろん貴方も手を出す事のないよう、必ず心に留めておくように」


「分かりました。そのように」


「結構」


 ミスズが眼鏡をくいっと上げながら満足気に頷いてそう言うと、ヒサトはミスズに敬礼をした後、ふらりふらりとそのまま、目の前で倒れるのではないかという足取りをミスズ達に見せながらゆっくりと、ケイノトの方へと歩いて行くヒサトであった。


「彼、大丈夫ですかね?」


 ヒノエは膝を少し曲げながら静かにミスズに耳打ちをする。ミスズとヒノエは身長差がある為に、耳打ちをしようとすると必然と中腰になるのであった。


「ふふっ。貴方が他人の心配をするのは珍しいわね。でも大丈夫ですよ、彼は副組長だもの」


 そう言ってヒノエにウインクをしながら、そう言葉を返すミスズであった。



「何です?」


 突然表情を変えたミスズにヒノエが訝し気に訊ねると、ミスズは左手の人差し指を自分の口元にあてながらヒノエにちょいちょいっと右手で招きをする。


 どうやら先程ヒノエがしたように、今度はミスズがヒノエに耳打ちをしようというのだろう。

 再び腰を曲げたヒノエはミスズに寄り添うように耳を持っていくと、背伸びをしながらミスズは内緒話をするように耳元でささやいた。


「ゲンロク殿の屋敷に居た『妖魔召士ようましょうし』達の人数はかなり少なかった。例のヒュウガという男たちが、大勢の妖魔召士ようましょうしを連れて動いている可能性が高い。確証があるわけではないですが、ケイノトに居る退魔組の元に居る可能性が高い」


「成程。ヒュウガが退魔組と手を組んでいると仰りたいわけですか」


 その通りだとばかりにミスズは片目を閉じて、ヒノエにウインクをするのであった。


「万が一の事を考えてサカダイの方にもスオウ組長達を待機させておきましたが、もし彼がイダラマ殿とも裏で通じているのであれば、何らかの行動が近い内に起こされるでしょう」


 貴方もイダラマ達との動向を気にしながら、用心はしておけとミスズは伝えるのであった。

 ここまで読んでキョウカ達をケイノトへ派遣し、スオウをイダラマ殿の見張りとして『サカダイ』に残していたのかと、ヒノエは感服したような表情を浮かべた後、流石は自分が認めている副総長殿だと感心するような笑みをヒノエは浮かべて見せるのであった。


 ここまでは流石と言わざるを得ない副総長ミスズであったが、奇しくも彼女たちやシゲンがサカダイへと戻った時に、多くの予想だにしない出来事が待ち受けているのであった。

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