第1058話 ゲンロクの責任追及

 『妖魔退魔師ようまたいまし』がゲンロク達の元へ向かおうと決起していた頃、そのゲンロク達の居る里ではこれまでの『妖魔召士ようましょうし』側の組織の歴史上で前代未聞の出来事が、起きていたのだった。


 その出来事とは『改革派』のリーダーであり暫定の長であるゲンロクと『妖魔召士ようましょうし』側の組織のNo.2である『ヒュウガ』が口論を起こした後、互いに里に居る妖魔召士の巻き込んだ、内部分裂が起きたのである。


 事の発端は『式』に監視をさせていた『キクゾウ』が『ヒュウガ』に報告を行った事で、ここまでの大事を決して隠し切れないと感じたヒュウガが件の二人組に対して追手を差し向けていた事を正直に『ゲンロク』に伝えた事であった。


 ソフィ達がこの里に訪れた時に『ヒュウガ』が隠していた事が明るみになり、前回ケジメをつけたばかりのヒュウガが、再びゲンロクに黙ってソフィとヌーを始末する為に追手を差し向けた事が分かり、ゲンロクはこの『ヒュウガ』に対して、完全に信用を失くしてしまった。


 それだけであればこの『ヒュウガ』という男を側近から外して、里から追放するだけで問題はなくなるのだが、今回はそれだけでは決して終わらせる事が出来なかった。


 何故ならその『ヒュウガ』が放った追手があろうことか、前回の会合で取り決めを行ったばかりの『妖魔退魔師ようまたいまし』の組織に属する『予備群よびぐん』に手を出して怪我をさせたというのである。


 『妖魔召士ようましょうし』と『妖魔退魔師ようまたいまし』は、袂を分かった間柄だとはいっても決して武力による対立は、これまでの互いの組織の歴史上一度もない事だったのだ。


 ゲンロクの屋敷の執務室で報告に来たヒュウガとキクゾウは、先程からゲンロクの前で頭を下げ続けていた。


「な、何てことをしてくれたのだ!」


 その両名に対してゲンロクは、椅子から立ち上がって怒鳴り声をあげた。


「も、申し訳ありません」


 ヒュウガはゲンロクに対して素直に謝罪を続ける。

 本当は『予備群よびぐん』ではなく例の二人組であるソフィ達を狙った事だと言いたいヒュウガだったが、そもそも前回の事があった後に内々で追手を差し向けていたという事がゲンロクにとっては、許される事では無い為、頭を下げ続ける事以外に選択肢は存在しなかった。


「お前は一体私を……。い、いや、この組織をどうしたいと思っているのだ?」


 目の前に居るヒュウガに色々と言いたい事はあったが、ゲンロクはその多くを呑み込んで最優先で聞くべき事を告げる。


 ゲンロクは禁術を編み出したり、前時代では認められなかった『妖魔召士ようましょうし』の資格がない者を『退魔士』として『妖魔召士ようましょうし』の下部組織として『退魔組たいまぐみ』という形で扱ったりをして、決して『守旧派』の者達にとっては褒められた事をしていない『妖魔召士ようましょうし』の暫定の長ではあった。しかしそれでも『妖魔退魔師ようまたいまし』と袂分かった後、戦力が半減してしまった事を憂いで彼なりにこの『妖魔召士』組織全体の未来を考えて『禁術』をここぞという時のみに使う事を許可したり『退魔組』を作ったのである。


 『改革派』の筆頭とはいっても目の前に居るヒュウガが行ったように『妖魔召士ようましょうし』の組織自体を潰すような無様な真似をしたいわけではない。


 信用を失うどころか目の前の『ヒュウガ』という『妖魔召士ようましょうし』の仲間であった者をゲンロクは憎むべき敵のように、睨みつけながら回答を待つ。


「……」


 ヒュウガは先程の謝罪の言葉の後は俯いたまま、無言でゲンロクの叱責を一身に浴び続けていた。

 ゲンロクは数十秒間、ヒュウガとキクゾウの両名の反応を見ていたが、全く反応を示さない様子で俯き続けているのを見てどうやら何も言えないのだと、ゲンロクは判断するのだった。


 このままでは埒が明かないとゲンロクは溜息を吐いた後、再び二人に向けて口を開いた。


「前回この里に来たヒノエ殿が言っていた『妖魔山ようまざん』の管理を『妖魔退魔師ようまたいまし』側に移すという問題は今回の事で認めなければ、向こうは納得しないであろう。だが、それだけではもう納得してもらえるとは思えない。前回の話合いの時点ですでに『妖魔山』の件は条件に含まれていた。その上で今回、お前達がしでかした事の問題を追及されるだろう……」


 しっかりと状況を把握出来ているのかさえ分からない『ゲンロク』はまるで子供に教えるかのように『ヒュウガ』に現実を直面させるかの如く、順を追って現状を理解させようと言葉を続ける。


「ヒノエ殿は前回『退魔組』のサテツの首を差し出せと言っていたが、あの時は決して本気の言葉では無く、妖魔山の管理権を移す条件を提示する為の言葉だったのだろうが、今回は本当に言い出しかねない。それも今回はサテツの首ではなく『予備群よびぐん』を傷つけた『キネツグ』と『チアキ』。そして……、だ」


 ――その瞬間、だんまりを続けていた『ヒュウガ』は何かを決心したような表情を浮かべた後、ゲンロクを睨みつけるのであった。

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