第1049話 いざ、サカダイへ

 魔神を元の世界へ帰らせた後に直ぐにソフィ達は支度を整えて、サカダイへと出る準備を行うのであった。


「それではコウゾウ殿、世話になったな」


「それはこちらの台詞だソフィ殿。おかげでこの旅籠を悩ます問題も無事解決する事が出来た。まだまだ全部が片付いたわけではないが、今後『煌鴟梟こうしきょう』が居るのと居ないとでは、まるっきり変わるだろう」


 本当に助かったという表情を浮かべながらコウゾウは、ソフィと握手を交わすのだった。


「それと、ソフィ殿に預けた文だが、間違いなく『妖魔退魔師ようまたいまし』の副総長である『ミスズ』様に渡して欲しい」


「副総長のミスズ殿か、任せておいてくれ。我が責任をもって届けよう」


 ソフィがそう言うと頼むと言った様子でコウゾウは頷きを見せる。


「我らが去った後も例の『妖魔召士ようましょうし』の者達をサカダイまで運ぶまでは、屯所内の結界はそのままにしておこう」


「色々と気を使ってもらってすまないな。助かるよ」


 『煌鴟梟こうしきょう』の構成員たちが相手であれば『予備群よびぐん』達で十分に対応が出来るが『妖魔召士ようましょうし』のコウゾウとチアキが相手となればコウゾウ達ではどうにもならない。手足を縛り『魔瞳まどう』を封じるために目隠しをしていたとしても『妖魔召士ようましょうし』達の『魔力』だけは縛りようがない為である。


 だが、そこにソフィの張った『結界』が加わる事で全ての問題は解決する。何故ならばソフィの『結界』は結界内で魔法を使用した術者の魔力を吸い取り、魔法発動を強制的に無効化するのである。そして結界内で魔力を行使された場合、当然ソフィの結界『魔力吸収の地アブソ・マギア・フィールド』は、相手の魔力の規模を直ぐに測り、の役割も担っている。


 チアキ達が脱走しようと目論みソフィの魔力を越える魔力を行使しようとした場合、直ぐにソフィには、屯所での魔力を即座に感知する事が出来る為、更にチアキ達の魔力を無効化する対応を取る事も可能なのである。


 つまりソフィの魔力を上回る者が居ない限り、あの屯所の地下では『魔法』や『捉術』といった魔力を伴う技法は使えない。まさに『神の聖域』と呼んでもいい程であろう。


「必要がなくなればまたお主がサカダイに来た時にでも会う事があれば、その時に言ってくれればよいし、我がこの世界を去る時まで、あのままにしておいても構わぬ」


「本当にすまないな、ソフィ殿。しかし数日中には上層部から、彼らの輸送の部隊が派遣されてくるだろうし、そこまで長くはかからないとは思うのだ」


「うむ。それならば、それでよい」


 そう言ってソフィは、コウゾウに笑みを向ける。エイジは二人の話を聞いていたが、ソフィの言葉に内心では驚いていた。


(本来、結界の力が強力になればなるほど、術者の魔力に負担がかかるものだが、魔族とやらの結界は人間とは違うのか? 『妖魔召士ようましょうし』と名乗る事を許された者達の魔力さえ『青い目ブルー・アイ』を発動させたとしても『魔力』が乏しい者で数十分。小生達でも持って数時間が限度なのだが)


 エイジはいつかソフィに、この町に張った『結界』の事を詳しく聞こうと思うのであった。


 そしてソフィが最後の挨拶をしようと口を開きかけたが、その前にセルバスが見送りに来てくれていたシグレの前に向かっていく。


 シグレはすぐに近づいてくるセルバスに気づいて頭を軽く下げた後、微笑みを浮かべている。


「な、なぁ! アンタ……、また会えるか?」


「えっ?」


「あ、あんたとはまた個人的に会いたいと思っている。この屯所に来れば、今後もまたあんたに会えるか?」


 シグレはそんな事を言われると思っていなかった為、きょとんとした顔を浮かべながら小さく驚きの声をあげるのだった。


 普段の表情では無く少し困った様子で隣に居るコウゾウの顔を見る。コウゾウとソフィ達は、やがてニヤリと笑みを浮かべた。


「安心するがいい、セルバス殿。この町に護衛が必要ないと言われるまでは、シグレはこの旅籠町の護衛の為に残させようと思っている」


「た、隊長……!」


「その時は悪いがお前が、この旅籠の護衛隊長を任せるぞ」


 突然のコウゾウの言葉だったが、旅籠の護衛隊の隊長を任せると言われて驚いていた様子だったが、徐々にシグレの顔がキリっとした表情になっていく。


「分かりました、お任せください隊長!」


 そう言ってシグレはコウゾウに敬礼をすると、コウゾウは頷いた後にセルバスの方を見る。


「そう言う事だからセルバス殿。シグレに用があるなら、いつでもこの旅籠に来るといい」


「あ、ああ……、分かった、すまねぇな」


「クックック、セルバスよ、もうよいかな?」


 セルバスは頭を掻きながらコウゾウに感謝の言葉を告げていると、一部始終を見ていたソフィが何やらニヤついた表情を浮かべた後、そろそろ町を出るぞと言いたげにセルバスに声を掛けてくるのであった。


「へい、時間を取らせてすまねぇ、旦那」


 最後にセルバスは意味ありげにシグレの方を一瞥した後、慌ててソフィの元へ駆け寄って行くのであった。


「それでは我達は行く事にする。本当に世話になった、感謝するぞ」


「こちらこそだ『旅籠町』の『予備群よびぐん』を代表して礼を言わせてもらう。何か俺達に出来る事があれば、いつでも声を掛けてくれ」


「うむ、それではな」


 そう言ってソフィ達はコウゾウ達や屯所の『予備群よびぐん』達に別れを告げて、サカダイへ向かう為『旅籠町』を後にするのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る