第999話 ヌーの覚醒
現在ヌーが纏っているオーラは『
テアが自分の事を想ってスキンヘッドの男に向かっていったが、返り討ちにあってそのまま壁に激突されそうになってしまった。
何とかそれだけは阻止する事が出来たヌーであったが、今の彼は腸が煮えくり返る程に激昂していたのである。
二色の併用も彼が纏おうと思って出したオーラでは無い。
それどころか今のヌーは怒りで我を忘れそうになる程であり、二色の併用に留まらず、オーラを纏うという事すら意識が行っていなかった。
つまり現在の纏っている『二色の併用』は、無意識にヌーが出しているオーラなのである。
純粋な怒りに目覚めながらも何とか冷静であろうとする無自覚な彼の本能。その本能から来る無意識な自衛の精神が、二色の併用という一つの解を示したのだった。
…………
そしてその場に居る者達の中で『ソフィ』だけがヌーの発している無意識の『青』と『紅』の『二色のオーラ』の意味を正しく理解していた。
(まさか、このタイミングで開花するというのか?)
ぞくぞくとソフィの身に震えが走る。
恐怖で怯えているのではなく、ソフィの身に起きているこの震えの意味は、
第二形態でもないこの通常状態のソフィが、これ程までに興奮状態になる事は、この数百年には一度足りともなかった事であり、そしてどこかで期待をしていた事が、ようやく実を結んで現実の物となったような、そんな感情が今ソフィの中で芽生え始めていた。
しかしあくまで今のヌーの状態は、ソフィの期待する事への兆候が見受けられているだけであり、完全に体現を許したわけではない。
そしてこの今の状態は、単に『
開花の道順を踏む為には必要な道程ではあるのだが、下手をすればその道程を歩み切る前に、その道が途切れてしまう可能性も残されている。しかしそれを分かっていても今のソフィには手を出すことは出来ない。
――『
他者から教わり『
しかしソフィも『
下手に今ヌーが纏っているオーラの事をヌーに伝えて自覚でもさせてしまえば『
あくまでヌーという魔族が、本能で今の『
テアに手を出された怒りで我を忘れる程激昂しているヌーが『発動羅列』を並べ始めながら、魔法を展開しようと動き出す。
しかし何かを行おうとしているヌーを見たヒロキは、ヌーの好きにはさせまいとばかりに、両手を拳闘士のように顔の前に出した後、軸足に思いきり力を込めて地面を思いきり蹴り飛ばした。
――次の瞬間。ヒロキは恐ろしい速度で、魔法を展開しているヌーに肉薄する。
「ちっ……!!」
ヌーは展開していた魔法を諦めて向かってくるヒロキの攻撃に備える為に『障壁』を張ろうとする。
障壁はあくまで一時的な防衛手段に過ぎないが、ひとまずは自分目掛けて突っ込んで来ているヒロキから身を守らなければならないと判断したのだろう。
「何をやろうが、遅い!!」
皮製のグローブを身につけたヒロキが、池の前から一瞬でヌーの間合いに入り込んできた。
ヌーは激昂していても戦闘経験は豊富な魔王である。
最初の魔法をスタックさせながら中断させて更に、その状態からでも冷静に障壁を完成させる事に成功した。
僅かなこの時間の間に、直ぐに頭の切り替えが出来たことは流石と言わざる得ないが、ヒロキの速度は想定よりも遥かに速かった。
本来であれば、この状態で距離をとって相手の攻撃をいなしたり、次の手を考慮するところだが、既に自分の懐の下に潜り込まれている。そして背後には壁がある為、このままであれば100%の相手の攻撃をこの場で受けざるを得ないだろう。
既にヒロキはヌーの懐に入ってから腰を落として左足に力を入れた後、そのまま体を捻りながら思いきり左拳を突き上げて来た。
その拳を見た瞬間にヌーは、自分の障壁がコンマ数秒後にあっさりと貫かれて、そのまま自分の首から上が吹っ飛ぶだろうと予感めいた物を感じさせられた。
「――!!」(ヌー!!)
ヌーの真近くに居た自分よりも、気が付けば肉薄してきて居たヒロキに驚きながらもそのヒロキのやろうとしている事に気づき、急いでテアは『
どんっと横から押されたヌーは、その場から真横に身体がずらされた。
そしてヌーが居た場所に飛び込んできたテアの顔を目掛けてヒロキは思いきり、下から上へとアッパーで突き上げた。
「テア!!」
ヒロキの一撃を何の防御もする暇無く、まともに受けたテアはそのまま上空へ殴り飛ばされて、錐揉み回転をしながら落ちて来る。
「くっ!!」
ヌーは直ぐに態勢を立て直すとそのまま空から落ちて来るテアを抱きとめようとするが、当然、ヒロキが黙ってそれを見ている筈もなく――。
「戦闘の途中に目を離すなよ二流が!」
ヒロキは再び両手を顔の前に出して今度は右拳で、空を見上げているヌーの顔目掛けて殴り掛かる。
「ちぃっ! 今のヌーではあれは耐えられぬ」
ヌー達の戦闘に手出しせずに行われる成長を見守っていたソフィだが、どうやら大魔王
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