第993話 追手の妖魔召士

 ユウゲがイツキの元に戻り事情を説明し終えた次の日の昼下がり、ソフィ達はセルバスに『煌鴟梟こうしきょう』のアジトを案内させていた。


 おとり捜査に協力させていた『煌鴟梟こうしきょう』の男も今は、セルバスの『魔瞳まどう』が解除されて元通りに戻ってソフィ達と共に歩いている。


 現在ソフィ達は『ヌー』『テア』『セルバス』そして『煌鴟梟こうしきょう』の男の五名でアジトに向かい、そのだいぶ離れた場所からソフィ達を追って『エイジ』『コウゾウ』『シグレ』が後をついてきている形である。


 アジトの場所は旅籠からは少し離れているようだが、基本的に田舎の一本道の為に向かうべき方角にアジトがあると分かっていれば、そこまで見つけるのは難しくは無さそうである。


 ケイノトから『煌鴟梟こうしきょう』のアジトへ向かったユウゲの通った道は、短い距離ではあるが森などもあり妖魔も多く出現していたが、どうやら旅籠からアジトへ向かう方が、楽に辿り着ける道筋のようである。


 ソフィ達一行の方は特に会話なども無くアジトへ向かって進んでいく。セルバスに辿り着く前であればまだソフィ達に会話もあったが、今はそのセルバスがヌーを気にして怯えている様子で歩いており、談笑など出来る筈も無かった。


 元々ソフィやヌーはそんな事を気にする者達では無いし、セルバスや捕らえられていた男もヌーと会話をするくらいならば、無言の方が気楽だと感じているようでそこまで空気は重たくはなかった。


 先頭を歩いているのは『煌鴟梟こうしきょう』の男で次にセルバスが続き、ヌーとソフィが並び立って最後尾にテアといった並びで歩いている。


 アジトへ案内するという名目がある為、捕らえられていた男もセルバスも前を歩いているが、今はそれが何よりの救いだとばかりに前を向いて歩いていた。


 そのセルバスであるがこの世界に来る前までは、自分とヌーはそこまで差は無く同格とまではいわないが、ある程度は対等の立場だと勝手に思い込んでいた。


 しかしこうして『煌聖の教団こうせいきょうだん』の庇護下を離れて『代替身体だいたいしんたい』の身でヌーの近くに居ると、おさえ込んでもおさえ込んでも恐怖心が消えず、今ではもうヌーよりもソフィの近くの方が、恐怖心が少ないくらいになっていた。


 そんな事を考えていると、セルバスの背後からヌーが声を掛けて来た。


「おい、あとどれくらいで『煌鴟梟こうしきょう』のアジトにつく?」


「もう直ぐだ! ここからは目と鼻の先にある!!」


 ヌーの事を考えていた為か、セルバスは脊髄反射でそう答えるのだった。


「そうあたらんでも良かろう。お主のその怒りはアジトにつくまでとっておくがいい」


 ソフィがそう言ってセルバスに助け船を出すような言葉を掛けると、舌打ちをしながらも大人しく歩き始めるヌーであった。


 セルバスは慌ててヌーの前を歩き始めると、庇ってくれるような言葉をくれたソフィに心の中で感謝をするのであった。


 ……

 ……

 ……


 セルバスの『隠幕ハイド・カーテン』を解除する為に、ヌーが引き起こした大魔法の爆音は、ソフィ達を追ってきていたエイジ達の元にも聞こえてきていた。


「何だ今の音は?」


「もしかすると、戦闘が行われているのか……」


「い、急ぎましょう!」


 シグレの言葉にエイジとコウゾウは頷いて、もう尾行はしなくても構わないだろうと考えた三人は、これまでの速度以上の速さでソフィ達を追いかけるのであった。


 ……

 ……

 ……


 ソフィ達の集団を追いかけるエイジ達の集団、更にその背後から両集団を尾行する者達が居た。ヒュウガが放った追手の『妖魔召士ようましょうし』達である。


「奴らは一体どこに向かっているのだ? 旅籠を経由してそのまま『サカダイ』へと向かう筈ではなかったか」


「ゲンロク様があの者達に『サカダイ』に向かうように告げたらしいが、まさか道を間違えているという事はないだろうか」


 一人は短髪で童顔の女性だが、紅い狩衣を身に着けている。

 彼女の名前は『チアキ』といい『ゲンロクの里』に居る生粋の『妖魔召士ようましょうし』だが、現在はイツキやサテツと同じく『ヒュウガ派』である。


 そしてもう一人の名前は『キネツグ』といい。散切り頭が印象的な男の『妖魔召士ようましょうし』で、あのゲンロクの里の入り口でソフィ達と会話をした中に居た男である。


 キネツグとチアキはソフィ達を追って里から南下してきたが、旅籠町に就いたと同時に『妖魔退魔師ようまたいまし』の『予備群よびぐん』の屯所に入ったソフィ達に手を出すのを躊躇ためらい、こうして出て来るのを待っていたのだが、今度はサカダイに向かうとばかり思っていた矢先に関係の無い方角へと向かい始めた為、仕方無く後をつけてきていた。


 どうやらこの方角の先に用があるらしいが、何やらあの屋敷に居たソフィという男と『妖魔召士ようましょうし』のエイジが別れて行動し、更にはエイジの元には『予備群よびぐん』の者が二体ついている為、再び様子を見ながら尾行を続ける事にしたのであった。


「しかし都合がいいといえば、都合がいいかもしれねぇな」


「ええ。サカダイに到着する前に始末をしておきたいところだし、人気ひとけのない場所に自ら向かって行ってくれるというのなら好都合だわ」


「ひとまず奴らの目的が分かるまで待つとしよう。ソフィとかいう奴らに意識を行き過ぎないように注意をしろよ? 後ろの集団には、エイジ殿が居るんだからな」


「誰に言っているつもりなのかしら? そんな事は百も承知よ、キネツグ……」


「失言だったな、急ごう」


「分かればいいのよ。さて行きましょうか」


 謝罪をしながらもキネツグは、チアキの態度に見えないところで舌打ちをするのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る