第982話 貫禄のある男

 中庭でユウゲを取り囲んでいた『煌鴟梟こうしきょう』の者達が顔を見合わせていると、アジトの中から新たにスキンヘッドの男が現れる。


「騒がしくしてすみませんね。ユウゲ様」


 その男はユウゲを視界に捉えると、軽く頭を下げながら口を開いた。


「む?」


 その男が顔を見せた瞬間、中庭に居た連中は一斉にその男に頭を下げた。ユウゲはその男を見たことが無かったが、他の者達の反応を見るに、このスキンヘッドの男はミヤジやサノスケのように、幹部の座に居る男なのだろう。


「お前ら、もうここはいいから行け」


 スキンヘッドの男が命令を出すと、ユウゲを取り囲んでいた男たちは再び頭を下げながらその場から去って行った。


「どうやら俺の事を知っているようで、話が早くて助かるぞ」


 ユウゲがそう言うとスキンヘッドの男は口角を吊り上げた。本人は他意は無くユウゲに笑いかけているつもりだろうが、体格もあって強面といえる顔つきに髪まで剃っているその男は、その笑みには何か裏があるんじゃないかと疑いたくなる笑顔であった。


「何やら先程の話ではユウゲ様はイツキ様からのご命令で、ここに来られたという事でしょうか?」


 男からイツキという名前が出た事で、ユウゲはこの男が幹部で間違い無いだろうと、ここで改めて確信を持つのであった。


 ユウゲはイツキの名前を決して他で出す事は無い。先程も『煌鴟梟こうしきょう』の先代のボスとしか告げてはいなかった。ユウゲを取り囲んでいた連中は、先程の反応を見るに先代『煌鴟梟こうしきょう』のボスである『イツキ』の名前はおろかその存在すら知らなさそうであった。


 しかしこのスキンヘッドの男は、明確にイツキの名前を出した事でまず間違い無く、この組織の上役である事だろう。


「ああ。その通りなんだが、ミヤジやサノスケ達はここに居るのか?」


「お二人共今は居ませんね。近くの旅籠でいつも通りの仕事中です」


「そう、なのか……」


 サノスケは元々は商売人だったところを『煌鴟梟こうしきょう』に入った事から、旅籠で例の仕事をしていてもおかしくはないが、ミヤジはイツキ様の時代から人に指示を出す側であった為、アジトから離れて今更本人が出向いて仕事をしている事に違和感を感じた。


「ではすまないが、ボスに取り次いでもらえないか? 直接会って話をしたいのだが」


「ええ、もちろんです」


 ユウゲがボスと会いたいというとそこで少し彼に間があった。再び違和感を感じたユウゲだったが、素直に会わせてくれると言われた以上、その違和感に気づかない振りをしてそのまま彼に頷きを見せた。


 ユウゲはそのままスキンヘッドの男の案内で『煌鴟梟こうしきょう』のアジトの廊下を歩いて行く。


「ボスの部屋はこの部屋の奥に繋がっているので、この部屋から中に入ってください」


 ここまで案内をしてくれた男が、そう言ってとある部屋の前でそう告げる。


「ああ。案内感謝する」


 そう言えば男の名前をまだ聞いていなかったなとユウゲは、スキンヘッドの男に名前を尋ねようとしたが、その部屋に入って中に居た男を見て開きかけた口を閉じた。


 『煌鴟梟こうしきょう』の当代のボスの居る部屋の前の一室。椅子にふんぞり返って座り、目の前のテーブルに足を乗せながら酒を呷っている男が居た。


(何だコイツは? こいつも『煌鴟梟こうしきょう』の幹部なのか?)


 スキンヘッドの男はその男を無視するように奥へと歩いていき、ボスの居る奥の部屋の前で立ち止まった。仕方なくユウゲはスキンヘッドの男の後を追って、酒を呑んでいる男の横を通り過ぎようとしたが、そこで男と目が合った。


「何を見ていやがる?」


 無視するわけにもいかずユウゲは、態度の悪いその男に口を開いた。


「いや、これは失礼をした。初めてみる顔だと思ってな、お主も『煌鴟梟こうしきょう』の幹部なのか?」


「クククッ、そう見えるか?」


 男に幹部かどうか尋ねたところ、少しだけ機嫌が良くなったように見えたが、男はそのままユウゲを無視して再び酒を呑み始めた。


 どうやらこれ以上この男は会話をするつもりは無いようだ。ユウゲがその場に立ち尽くしていると、スキンヘッドの男がこちらを見ていた。


「では失礼する」


 ユウゲはそう言い残して男の横を通り過ぎていくが、もうユウゲに興味は無くなったのか、男は返事すらせずにそのまま酒を呑見続けているのであった。


 ……

 ……

 ……

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