第979話 サテツの補佐を務める男

 町の灯りが消えた宵闇の頃『特別退魔士とくたいま』の『ユウゲ』は、一人ケイノトの裏路地を歩いて行く。

 退魔組の皆が余暇の話で盛り上がっていた頃に、サテツの補佐を務めるこの退魔組でそれなりの地位に居るイツキに皆が寝静まるこの時間帯に、会いに来てくれと頼まれたからである。

 入り組んだ裏路地を慣れた足取りで進んでいくユウゲは、あのエイジが住まい構えている場所とは、反対の路地の道を歩いている。この辺は裏路地でも特に人気が少なく空き家が多い。

 元々ここら辺は『』以前までは『妖魔退魔師ようまたいまし』達が住んでいた場所であった為に、今はその名残でほとんどが空き家となっている場所であった。

 そして遂に目的の長屋に辿り着くと、ユウゲは長屋の引き戸を開けて音を立てずにそのまま中へ入った。普段は空き家となっているその長屋の中は物などは一切見当たらず、蝋燭の灯りだけが部屋を煌々と照らしていた。


「道中、つけられたりはしていないだろうな?」


 ユウゲは灯りの前に居る男に声を掛けられて、直ぐに視線をその男に向けながら言葉を返した。


「ええ。この辺は空き家続きですし、今はこの裏路地にはあのはぐれ『妖魔召士ようましょうし』も居ませんしな。ここまでの道中、何も問題は無かったですぞ」


 ユウゲがゆっくりと声の主の方まで歩いていき、やがて暗い部屋で男の顔が見える位置まで進むとその場でゆっくりと、蝋燭を挟んだ男の向かいに座り込んだ。


「そうか。寝静まる前にすまないなユウゲ」


 そう喋る細い目をした男の顔が、蝋燭の灯りに照らされてはっきりと見えた。


「いえ、それよりもこの場所を使われるのは久しぶりですな。それで話というのは、先刻ゲンロク様の里から来られた使者の事ですかな?」


「……」


 ユウゲの言葉に押し黙った細い目をした男は、退魔組の現場を任せられている退魔組の頭領『サテツ』の補佐を務める『』であった。


 本来、頭領の補佐を務めているイツキであっても身分的な意味合いでいうならば『特別退魔士とくたいま』であるユウゲの方が格は上となる為に、普段通りであればイツキがユウゲに敬語で話し掛けている。

 あくまでイツキはサテツの補佐を務める『上位退魔士じょうたいま』であり、同じ上位退魔士であった『ミカゲ』と同格。能力的な意味では『擬鵺ぎぬえ』を使役していたミカゲの方が、立場は上と呼べる程であった。


「いや、そっちも関係はあると言えばあるのだが、元々はお前を呼んだ理由は別だ」


 しかしこの場では正座をして座っているユウゲに対して、年齢も上であるユウゲの質問に、どう答えようかと考えているイツキは胡坐をかいてユウゲをお前呼ばわりで接していた。


「では『煌鴟梟こうしきょう』の件ですかな?」


 ユウゲがそう言うと、イツキは細い目を少しだけ開いてニヤリと笑った。


「ああ、少し看過出来ない事が起きていてな。俺が様子を見に行こうとしていたところで、里からゲンロク様の使いが来てしまったのだ」


「それはつまり……。ヒュウガ殿が何かミスを……?」


「ヒュウガ殿がミスをしたという事では無いんだがな。端的に言うとミカゲが報告してきた例の二人組は『妖魔』という事であったが、どうやら魔族という人間の姿をした存在が『ゲンロク』と『ヒュウガ』殿の居る里へ、エイジを連れて来たようだ」


「!!」


 まだ退魔組ではこの事は正式に伝えられてはいない情報の為、ユウゲは目を丸くして驚いた。


「あくまで里からの正式な遣いからの情報の為、ヒュウガ殿が画策した内容が全てゲンロク様に知られているか、そこまでは把握出来ていない状況だ。だからこそ今俺が余計な事をしでかして話がこじれるのは避けておきたいのだ」


「成程。では具体的に私は何をすればよいのですかな?」


 ヒュウガやサテツ、そして目の前に居るイツキの画策していた内容をある程度聞かされていたユウゲは、ようやく現状の把握が出来たようで、直ぐに頭を働かせて自分が呼ばれた理由に行きついた上で自分のやるべき事は何かとイツキに尋ねるのだった。


「やはり君は賢いね。こちら側に引き込んでいて正解だったよ」


 ユウゲに向けている今のイツキの顔は『退魔組』に居る時によく見せる、

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