第908話 話の齟齬
「お主はケイノトの町の住民たちを守る為に、これまで戦場に出る事が出来なかった者達に力を与える事を可能にしたと聞いた」
「そうだ。古来から人を襲う妖魔が身近に蔓延っているのだ。戦える戦士を増やして少しでも町に生きる者達を救いたいと思うのは、当然の事だろう」
「確かにその考えはとても素晴らしい事だと我も思う。戦えない者達からすれば、非常にありがたい取り組みだろう」
これまでとは全く違う内容の話を始めたソフィ。それを聞いたゲンロクは、先程までソフィ達を取り押さえようとヒュウガ達に命令を出そうとしていた事など頭から抜けてしまい、ソフィの話す内容がどういう意図なのかとそちらに意識を向けられてしまうのだった。
「だが、そんな風に人道的に尽くせる者が編み出した力にしては、少し暴力的過ぎやしないかと、我は話を聞いて思っておったのだ」
「一体何が言いたい? 妖魔を『式』にするのは昔から『
ソフィは突然のゲンロクの変貌振りに些か驚かされた。今ゲンロクが語った言葉には、演技や用意された言葉を話した様子では無く気迫に迫っていて、とても熱意のある心の底からの言葉に思えた。
どうやらこのゲンロクという男は、力や権力に溺れた者ともまた違う。本当に人間たちの為にという気持ちをもって色々と行動をしてきたのだろう。しかしそちらに傾倒しすぎていて、その他の事に目が行っていない。一つの物事に対して追求しすぎた結果、視野が狭くなってしまったのだろう。
「クックック……。そうかそうか。お主はお主になりに同じ人間達を案じて、そして行動を起こしたという事か。お主はとても立派だと思う。そしてお主の言いたい事も分かるし、してきた事もある意味で正解だ」
ソフィは優しい目をしながらゲンロクを見据える。
「うむ。お主は確かに立派だ。だが少し『
「何?」
『
「別の種族に対して最初は同じ同胞のように接しろと言うのは難しいだろう。だが、お主はそれだけ人を思いやれる事が出来るのだ。それだけの事が出来るのであれば、その相手側の気持ちも理解してやれるだろう」
「何を言っているのだ?」
「お主が編み出した術によって『
ようやくソフィが何を言っているのかを理解し始めたゲンロク。どうやらこの若い青年は、無理矢理『式』にされた妖魔側の目線で話をしているようであった。
「ソフィ殿、何故ワシらが人間を襲ってくる妖魔の気持ちを汲んでやらねばならぬ? 奴らは人間に仇を為すものだ。ワシらに奴らを思いやる必要や余裕などあるわけが無かろう』
「妖魔が全員人間を襲う為だけに存在しているわけでは無い。彼らの中には無理矢理従わされてしまった妖魔を解放しようと、それだけで行動しておる者も居るのだ『
ソフィは新たに出来た友人である『サイヨウ』から受けた言葉を別世界の同じ『
「貴様……。一体何者なのだ? 先程の言葉からは『
「我は確かに『
ソフィが再び動忍鬼の言葉を思い出し、口調に苛立ちの色がこもり始める。そんなソフィの言葉を聞きながらゲンロクは眉を寄せ始める。
「ちょ、ちょっと待って欲しい。ソフィ殿」
続きを話そうとしていたソフィだったが、ゲンロクの言葉に開こうとしていた口を閉じる。何か誤魔化しめいた発言をしようとソフィの話の腰を折ったのかと思ったが、どうやらゲンロクの顔を見て演技では無く、本当に心当たりが無さそうな表情だった為に、ソフィは素直に口を閉ざしたのであった。
「タクシンというのは確かに『退魔組」に属する男で『
その言葉に今度はソフィが驚かされる。
これまで悪意に満ちた者達を相手に数えきれない程の対話を繰り返してきたソフィの目から見ても、ゲンロクが誤魔化しや嘘を告げているようには全く見えない。
これが演技で言っているのであれば、ゲンロクと言う男こそが、狐やタヌキの妖魔とかでは無いだろうか。
思わずソフィが絶句したままゲンロクを見ていると、ソフィの隣に居たヌーが代わりに口を開くのであった。
……
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