第907話 聞いておきたかった事

「この期に及んで白を切るか。転置宝玉をワシから盗んでおいて、何が目的かを言え!」


 次にソフィが誤魔化すような言葉を言おうモノなら何をしでかすか分からない程に、ゲンロクは苛立っている様子だった。その様子からどうやら転置宝玉をエヴィ達に盗まれたのは間違いが無いようで、ゲンロクはその事に関して、普段通りの体裁を保つ程の余裕が無いようだった。


「まぁ落ち着くのだ、ゲンロクとやら。我が転置宝玉を配下を使って盗ませたとして、何故その首謀者がこうして、お主の前にノコノコ現れるのだ?」


「そ、それは……」


 怒りに身を任せて怒鳴っていたゲンロクだったが、ソフィの言葉を聞いて少し冷静さを取り戻した様であった。


 ――確かにおかしな話ではある。彼の先祖代々続いてきた家宝である転置宝玉が盗まれたことで冷静さを欠いていたゲンロクだが、配下を使って盗み出したとして、わざわざ盗みを指示した男がこうして馬鹿みたいに現場に戻って来る理由が無い。


 ではこの男の言う通り、あの青い髪少年の行方を捜しに来ただけで、本当にイダラマや転置宝玉とは無関係なのだろうか。そんな偶然があるのか。それとも目の前の男が嘘を吐いているのか、一体何が正しくて何が嘘なのか、判断がつかないゲンロクであった。


 ゲンロクはソフィという男が首謀者だと決めつけていた為、先程ヒュウガに視線で指示を出して彼らを捕らえるつもりで、この里の妖魔召士ようましょうし達を呼び寄せたのだった。


(どうする? 一旦彼らを捕えて牢にでも繋いで一から洗ってみるか?)


 今この部屋にはヒュウガとゲンロクを含めた『妖魔召士ようましょうし』が五人。相手側に前時代で名を馳せた『妖魔召士ようましょうし』のエイジがこの場に居るとはいっても、他にはよく分からない恰好をした者達が三人程いるだけだ。


 ゲンロクという男は人を妖魔から助ける『妖魔召士ようましょうし』としての顔を持ち、ケイノトといった大きな町や、いくつもの里を管理していけるだけの能もある。


 だが長く権力を持ち過ぎた弊害か、それとも元々の彼の性格か、何もかもが自分の思いのままだと思い込むような男なのであった。


 ただゲンロクの厄介なところは、その性格や権力にを持っていた事。単なるリラリオの世界で会ったような権力を持っているだけの貴族たちや、他の世界の貴族のように、その権力を笠に着ているだけの首長では無く、膨大な魔力を有してその『大魔力』を無駄にせずに利用する事で新たな術式を編み出しては、これまでは戦う事すら出来なかった一般人を『退魔士』としてランクが低い妖魔であれば、十分に渡り合わせる事を可能としたりと、自身の力を増幅させるだけでは無く、


 彼の思惑は別としても彼の編み出した新術によって、助けられた命も少なくはないだろう。だからこそ、決して少なくない反対意見を全てねじ伏せて、こうしてケイノトの町や、今居るような里の統治が出来ているのである。


 ゲンロクを気に入らないと思っている者達にとっては非常に面白くない現状であるが、ゲンロクだったらば仕方が無いと、そのゲンロクに対して批判的な人間達は半ば諦めていた。そんなゲンロクだからこそ、こうして目の前でグレーだと思える者であっても牢屋に繋いで洗いざらい吐かせるか等といった考えが直ぐに頭に思い浮かぶのであった。


 そしてそんなゲンロクは、僅かな時間逡巡していたが、やがてソフィ達を捕らえる事にしたようであった。たとえ間違っていても、それはそれで構わない。文句を言われれば潰してしまえばいい。どうやらゲンロクはそう決断したようであった。


 そこでゲンロクがソフィ達を捕らえようと、その口を開きかけたその時だった。


「お主にはエヴィの行方の他に、聞いておきたい事があったのだが」


「む?」


 ゲンロクの不穏な態度を見たソフィは、彼が何か行動を起こそうとするのを察して、エヴィの話をこれ以上広げずに唐突に話題を変え始める。


 これまで冷静な態度であったソフィだが、そんな彼から少しだけ怒りが孕んだような声色で、喋り始めるのであった。


 ……

 ……

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