第878話 誘い込む罠

 イバキ達はリクの案内により『加護の森』を出た後、サカダイの管理している森へと向かっている。

 『退魔組』のリクが言うには、タクシンの亡骸を見て逃げ出した後、今向かっている森で妖魔に襲われたと話す。イバキ達に襲われた事を伝える為に、同志達は時間を稼いでくれているらしい。


 その話を聞いたイバキ達はこうして、件の襲われた森へと向かっているのだが、その途中でイバキは再び思案を始めていた。


(タクシン殿の亡骸を見て、妖魔と戦う事を恐れて逃亡したというのに、その妖魔達に襲われて仲間を逃す為に時間を稼ぐ? そんな気概がある者達が、何故逃げ出したというんだ……?)


 今イバキは表面上は普段通りを装って入るが、内心では同志と呼んでいた『退魔組』の隊士達の事が全く分からなくなっていた。


 だが今はひとまず襲われているという、を助けなければならない。考えるのはその後にしようとイバキは先を急ぐのだった。


 ……

 ……

 ……


 そしてリクの後をついていったイバキ達だが、遂にサカダイの管理地の森に辿り着いた。


「イバキ、血の匂いだ」


「ああ。近いな」


 森に辿り着いたスーがイバキにそう告げると、イバキはリクに視線を送る。イバキの視線を受けたリクは頷き、再び足を動かし始める。その後を隊士達はついていくのだった。


(この森は加護の森と違い、結界の類は用意していないのか? 全く魔力の流れなども感じない……)


 違和感を感じながらもイバキは、前を走るリクについていく。その間にもイバキは『加護の森』に居た時よりも警戒心を高めている。この場所はもう『退魔組』の管理外のサカダイの地である。ここで何が起きたとしても『ケイノト』側は手が出せない。


 行動次第では他町『サカダイ』への干渉行為となってしまう。自分の身は自分で守る以外に無い。やがて血の匂いが一層強くなり始めた森の一角。その場所に辿り着いたイバキは、血だまりに沈む退魔士達を見た。


「ぐっ……」


 イバキ達に少し遅れてミカゲ達もこの場に到着する。血だまりの中に首だけが無い胴体が転がっていたり、顔だけがこちらを見ていたりしている。隊士達はこの場の凄惨な同志達の死体を見て、呻き声をあげるのだった。


「ちゃんと連れてこられたみたいだな」


 長いピアスを左耳につけた特徴的な男が、イバキ達を見てそう言った。


「どうやらあの少年の『金色の目ゴールド・アイ』とやらは相当に大した代物のようだな」


 そしてイバキやミカゲ達の背後から、大男が退路を防ぐように出現する。


「どうやら妖魔では無く、人間のように見えるが……。お前達は何者だ?」


 イバキが先頭に立ちスーが退魔士達の背後に立つ。二人は無意識に同志達を守ろうと動いたのであった。


「よし、もういいぞお前」


 イバキがその声に反応してそちらを見ると、いつの間にそこに居たのか青い髪の少年が、リクに向けてもういいとばかりに手を振っていた。するとここまでイバキ達を案内したリクの目が虚ろになったかと思うと、そのままフラフラとした足取りで、どこかへ歩いて行こうとする。


「なっ……! お、おい! 何処へ行く!」


 イバキがリクに詰め寄ろうと一歩踏み出すと、そこに一枚の式札がヒラヒラと空から舞い降りて来る。


「『式札』!?」


 慌ててイバキは踏み出した足を戻して、落ちて来る式札から距離をとる。やがてボンッという音と共に一枚の式札からリクへの道を阻むように大きな『鬼人』の妖魔がその姿を現すのであった。


「どうやら俺達は誘い込まれたか」


 フラフラとこの場を去っていくリクの後姿を見ながらイバキは、苦々しい顔を浮かべながらそう呟くのだった。


「ほう。あんな者がこの集団を率いているとはとても思えなかったが、お前であれば理解は出来る。お前がこの集団の指揮を執っていたようだな『イバキ』」


 そこに背後の大男の傍からイバキに対して声を掛けて来る者が現れた。その男が現れたと同時に、大男はその男に頭を下げてみせる。


 その『』を着た男を見たイバキは、目を丸くして驚くのであった。

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