第845話 常識の通じないソフィ
「さて、まずはエヴィを探しに出る前に当分滞在できる宿を探そうと思うのだが構わぬか?」
ソフィがそう言うと、テアは頷くがヌーは考える素振りを見せた。
「何だ? 他に優先したい事があるというのならば、自由に言ってもらって構わぬぞ」
「お前……」
突然溜息を吐き始めるヌーにソフィは眉を寄せる。その様子を見たヌーは冗談でも無く、本気でソフィが言っているのだと理解し、嫌そうな顔を浮かべながら口を開いた。
「別に『
ヌーの言う組織とは森で襲ってきた人間達の集団『退魔組』の事であろう。食事処で出会った『イバキ』と『スー』はいい者達であったが、森で出会った『退魔組』は例外無く皆ソフィ達を殺そうと襲ってきた。
そして一番面倒だった人間『タクシン』は既にこの世から去ったが、他にもソフィ達の顔を見た『退魔組』の人間達は数多く居る筈である。
特に最初に町に戻った『ミカゲ』という退魔士は、タクシンと戦闘を行ったソフィとヌーの事を所属する組織の連中に報告を行っていることだろう。下手をすればソフィやヌー達を討伐対象の妖魔として『退魔組』全体に知らせているかもしれない。
その討伐対象になっているかもしれないソフィという男は、当分この町に滞在する事になるから宿を取ろうと思う。と、当たり前のように告げたのである。
慎重に動く魔族であるヌーにしてみれば、敵地の真ん中で宿をとると聞かされて、何の冗談だと考えるのも仕方が無かった。
「――」(別に私が見張りをしていてあげてもいいよ?)
「そう言う問題じゃねぇんだよ。少しはコイツに常識を理解しろと言いたかっただけだ」
「……?」
テアの申し出にやんわりと断りながら、ヌーは溜息を吐く。
死神のテアが何を喋ったのか分からなかったソフィは、疑問顔を浮かべていたが、ヌーが再び口を開いた為に、テアが何を言っていたかを聞くことが出来なかった。
「まぁ、東西南北『魔界』中の魔族が幾万と一斉に襲撃を行ってもコイツと魔王軍だけで何とかしちまった前例がある以上、結局どうこういっても何とかなっちまうのか……。クソが、これだから『化け物』と行動したくねぇんだよな。こっちの常識が大きく変わっちまいそうだ」
それはソフィによく聞こえる声だったが、ソフィと会話をしているというより自分を納得させる独り言のようでもあった。
大魔王ヌー程の恐ろしい力を有する魔族であっても、大魔王ソフィの持つ常識には、遠く理解が及ばない。敵地のド真ん中で宿をとって、数日滞在する予定と言われて、普通であれば信じ難い冗談だと思っていてもこのソフィという男は冗談のつもりでは無く、エヴィを見つけるまでこの町に居座るのだろう。
普通の者であれば身近にある筈の『命の危険』という当たり前の事が、気が遠くなるほどの年月味わったことが無い魔族の前では、
そしてこの世界に居る目的は、この目の前の男の配下を見つける事である。
つまり主導権を握っているのはソフィである以上、ヌーだけが文句を言ってもどうにもならない。そこまでヌーの思考が至った後、仕方なくこう口にするのだった。
「いいか? 敵地のど真ん中で
――それがヌーの提示した譲歩出来る最大限の条件であった。
そんな大魔王が同じ部屋に居れば、まず自分達の身の安全は確保できるだろう。ソフィに頼らずとも自分の力で何とかするつもりではあるが『タクシン』という人間と戦った事でヌーは、この世界の人間を侮ってはいけないと理解したようであった。
「うむ、別に同室で構わぬのだが。我達はそんなに『退魔士』達に
「……」
ようやく話にケリがついたと思った矢先、そんな事を言い始めたソフィに乾いた笑いを出さざるを得なくなるヌーであった。
「――?」(ねぇねぇ、何を話して笑っているの?)
首を傾げながらヌーの服の裾をちょこんと持って、そう聞いてくるテアにヌーは目を覆いながら天を仰ぐのだった。
「――?」
「?」
ソフィとテアは互いに顔を見合わせながら、ヌーの奴はどうしたんだろうな? と、言葉無き意思疎通を行うのであった――。
……
……
……
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