第844話 ソフィの独白

 ケイノトにある食事処を出たソフィ達は、早速ソフィの配下である『エヴィ』を探す為に行動を始めるのだった。


 当初は人が多く集まるであろう食事処で情報を集めようと考えたのだが、その場所には『退魔組』の者達と思われる『四人組』の若衆たちが居た為、ソフィ達は今は食事処での聞き込みを諦めて腹ごしらえを優先する事になったのだった。


 しかし食事処に寄った事は悪い事ばかりでは無かった。エヴィの情報を得る事は叶わなかったのだが『退魔組』の『イバキ』『スー』という者達と知り合い、悪くない縁が出来たのである。


 この世界に来た直後に彼ら『退魔組』と呼ばれる組織の人間達に、自分達が妖魔だと間違えられて襲われた事で『退魔組』にいい印象は持たなかった二人だが、食事処で知り合った二人組はソフィから見てもとても話しやすい人間達であった。


 ソフィ達に探し人がいると知ったイバキは親身になって話を聞いてくれた上に、今は町の外に出ないようにしたほうがいいと教えてくれた。どうやら彼も妖魔に対しては退魔士らしくいい印象は持ってはい無さそうではあったが、これまでの『タクシン』や『ミカゲ』といった退魔士とは、どこか違うようにソフィには感じられた。


 ソフィが探し人を探しにこの町に来たと伝えた事でイバキは何か思う事があったのか、顔に暗い陰を落とした。そして話の中でソフィに見せた一面は、妖魔との間で何か因縁がありそうに思えた。


 詳しい事までは話してみないと分からない事だが、妖魔によって彼もまた大事な者を連れ去られた経験があるのかもしれない。ソフィはそうアタリをつけて考えているのだった。


 だが、このイバキとスーという二人組との出会いは、間違いなくソフィ達の中で退魔組という組織のイメージを変えてくれた。


 この世界の通貨を持たない事に気づいたソフィ達が、食事分の代金をどうするかと悩んでいると、イバキは事情を汲み取ってくれて店の支払いをしてくれた上に、更に当分の滞在金として硬貨数枚を貸してくれたのであった。


 この通貨がどれくらいの価値を持っているのか。それはソフィ達には分からないが、イバキ曰くとして、持たせてくれたという事は、それなりに安くない金額なのだろう。


 エヴィを探す事ばかりを考えていた所為もあるが、今思えばかなり計画無しだったとソフィは反省をしていた。


 エヴィが一日で見つかるという根拠も無いというのに滞在する為の宿代や、食事の事を考えずに行動をしようとしていた。どこか直ぐに見つける事が出来るだろうと楽観視していたようである。


 結果論でしかないがあの食事処へ最初に向かった事は、今後の事を考える上でだったようである。


 そしてもう一つあの食事処へ行った事でいい事があった。それは明確に同行者の関係性を理解出来たという事である。


 ソフィは死神のテアと大魔王であるヌーが、合流したときから仲は良好だと思っていたが、食事処で目にした光景は忘れる事が出来ない。これまでのヌーという存在の印象をガラリと変えてしまうものだった。


 テアの為に食べ物を頼んでやり、食べやすいように皿を整えたり、美味しそうに食事をするテアを見て悪くなさそうに頬を緩めたりしていた。


 これまでもソフィは、決してヌーを嫌いでは無かった。彼は周囲に殺意をばら撒き、仲間と呼べる者達は皆無であり、あくまで自分の道具として動く配下や魔物達のみを従えて目をギラギラさせながら『アレルバレル』の世界での天下を取る事ばかりを考えていた。


 しかし敵ばかり作る彼ではあったが、努力だけは決して怠る事は無く、自分の願望の為ならば、如何なる努力も欠かす事は無かったからである。


 何も努力をしているから偉いとかそういう事を言うつもりは無いが、大きな目標や願望を口にしたところで、その夢を掴む為の努力を怠ってその道の達成を遂げた者達は、限りなく少ないという事を魔族として長く生きてきたソフィは誰よりも理解していた。


 当然、何も努力をせずに運だけで目標を成し遂げる者もいることだろう。

 しかしそれは天才と呼ばれる者であったり、一握りの成功者でしかない。そんな運命に生きている者のようになりたいと思っても誰もがなれるわけでは無い。


 そんな天の恵みに羨望を向けて待つだけの生を選ぶより、願望に向かって努力する者のほうが辿り着く成功率は高いだろう。そして自分の決めた目標に向かって努力をする者をソフィは好むのであった。


 ヌーが極悪で他者を罠に嵌めて、のし上がろうとする魔族であったとしても、ソフィはそれが本人の選んだ道であれば構わないと思っていた。


 ヌーがソフィを殺す為に努力を続けて、新たな魔法や新たな力を得ていくところを見ていたからである。


 努力を続けていく限り、ソフィはヌーを見放す気は無かった。そして今後もそれは続いていくはずであった。


 ――しかしどんな事にも例外というモノは存在する。


 大魔王ソフィにとって、大魔王フルーフはかけがえの無い存在であった事。


(お主は悪い奴ではあるが、救いようの無い奴では決してなかった。しかしお主はフルーフの大事な娘との時間を奪ってしまった。それはあやつにとっては何よりも許せない事だろう。今回ばかりは我はお主を助ける事は出来ぬのだ。自分で生き延びて見せよ。』)


 食事処を出たソフィは目の前でテアを茶化しながら、楽しそうにしているヌーを憂いだ目で見るのだった。


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