第802話 力加減を誤るソフィ

 ソフィは『力』の一部開放した事により、通常時から変貌を遂げて背中から漆黒の翼を生やした姿に変えていた。


 この姿となったソフィは通常時とは違い、少しばかり残虐性が増して好戦的な性格となる。更にソフィは形態変化を行い、大魔王化。そしてその上となる真なる大魔王化へと変わり、それに伴って戦力値と魔力が大きく変化を遂げる。


「さぁ、我の期待を見事に越えてみせよ」


 金色のオーラがソフィの周囲を覆い始める。唐突に膨れ上がるソフィの魔力値と、戦力値を感じ取った二人組は険しい表情を浮かべ始める。


「どうやらお主の予感が当たりそうだ」


 白い狩衣かりぎぬを着た男がそう言うと、腰鞘に刀を差した剣士が戦闘態勢に入りながら口を開いた。


「私が時間を稼ぎますので、その間にミカゲ様は式をお願いします」


「心得た。では私が『式』を使役した瞬間にお前は本国へ伝達しろ」


「承知!」


 そこで会話を終えた狐の面を被った二人組だった。


 次の瞬間、剣士の方は恐るべき速度でソフィに肉薄する。


「ほう……?」


 ソフィはその速度に感心するような声をあげた。リーシャ程の速度ではないが、しかし人間で同じ剣士のリディアよりも


 剣士は一旦ソフィの前に移動した後に直ぐに攻撃をするのではなく、そのまま死角にさらに移動する。どうやら狐の面を被った剣士はかなりの戦闘慣れをしているように見受けられた。


「とったぁ!」


 ソフィの胴体を真っ二つにせんと、横凪ぎに振り切る剣士。


 確かに大魔王領域に居る魔族でさえ、怯みを見せる程の殺気が込められていた。しかし刀がソフィの胴体を斬る事は敵わなかった。


 ソフィは刀の刃をなんとオーラで包んだ手でそのまま掴むと、ニヤリと笑った。


「移動する速度に刀の剣速も申し分は無い……が、それではまだまだ我には通用せぬな」


「!!」


 狐の面の剣士は、ソフィの力で抑え込まれて刀を動かせない。剣士は両手に力を込めるが、刀の手を持つ手が震えるだけだった。


「悪いがお主程の力量を持つ者に殺気を向けられて、放置する事は出来ぬのでな」


 ソフィはそう言うとゆっくりと刀の刃を掴んでいる手に力を込める。次の瞬間には剣士の刀がパキンッと音を立てて折れた。


「なっ……!?」


 驚く剣士と一度だけ視線を合わせたソフィは、鋭利な牙を見せながら笑う。そして左手を思いきり剣士の前で振ると、その手の風圧だけで剣士は吹き飛んでいき、身体を空中で二回転、三回転させる。そのまま重力に逆らう事も無く地面に落ちると、勢いが止まらないまま地面を擦りながら突き進んでいく。


 やがて遠くの木にぶつかったかと思うと、剣士は意識を失いゆっくりと地面に倒れるのだった。


「ク、ククククッ! 相変わらずあいつは……、信じられねぇ化け物だ」


 腕を組んで見ていたヌーは、ソフィを見て苦笑いのままで呟くのだった。そこそこの戦力値を誇る剣士は、本気で殺すつもりで向かっていった筈だった。


 だが先程の剣士は風圧だけで吹き飛ばされて意識を失わされた。あくまでソフィはただ手を振っただけだったのである。あまりに力の差、強さというものに差がありすぎて『ヌー』は笑うしかなかったのであった。


「むっ、少しばかり予想とは違っていたか?」


 剣士の折れた刃を掴んでいたソフィは『終焉の炎エンドオブフレイム』で完全に溶かし尽くしながらソフィは、自分の力加減が誤っていた事を理解する。


「『』までは使う必要はなかったようだ」


序列部隊じょれつぶたい』程の強さはあるとヌーに言われていた為、で戦ったが、どうやら『淡い青』のオーラで十分だったようである。


 …………


『式』を呼び出そうとしていた『ミカゲ』と呼ばれていた男は、護衛の剣士があっさりとやられたところを見て、唖然とした表情を浮かべるのだった。

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