第800話 突然の襲撃者
「しかし森の中心とは、珍しいところに出たな」
フルーフも見渡しが悪い森の中を眺めながら、初めての世界を観察する。
「森か。そういえば我がリラリオの世界へ跳ばされた時も森だったな」
そしてそのおかげでベア達に出会い『グラン』の町を案内してもらったのだった。今となっては懐かしいなとソフィは考えていたが、隣でフルーフが『スタック』を開始していた。どうやら再び『アレルバレル』の世界へ戻るつもりなのだろう。
「ではソフィよ、前に言った通りにワシはレアを連れて一度『レパート』の世界へ帰るぞ。落ち着いたらまた様子を見に来る。こやつがしっかりと、
「オイ、ちゃんと約束通り『ノックス』の世界へは案内しただろう。そこまで俺は落ちぶれちゃいねぇよ」
「ふん。どうだかな。それより大魔王ヌーよ、ワシとの約束はしっかりと守れよ?」
「分かっている。てめぇこそ誰に舐めた口を利いているか、今に分からせてやるからな」
舌打ちを交えながらヌーがそう言うと、フルーフは鼻をならしながら笑みを浮かべるのだった。
「ではソフィよ、配下の者に会えることを祈っておる。無理だけはするでないぞ?」
「うむ。 フルーフよ感謝するぞ。お主も長く空けてしまって『レパート』の世界の再建は大変だろうが、お主なら必ず大丈夫と信じておる」
フルーフは黙って右拳を差し出すと、ソフィもその拳に合わせる。再会の時のように拳と拳で魔力をぶつけ合って挨拶を交わすと『ドンッ』という音と音の衝撃が森の中を駆け巡っていった。
「それではな」
「うむ」
その言葉を最後にフルーフは、レアの待つアレルバレルの世界へと帰っていった。
先程の挨拶によって、森の近くに居た小動物等は逃げ去ったようで、森の中は風が木々の葉などを揺らす音だけが響いている。
「エヴィの魔力はこの辺では感知は出来ぬな。それに魔物などの気配も無い。少し移動して街などがないか探しに行ってみるか」
「オイ。そろそろこの拘束具を外しやがれ。このままだと何も出来ねぇだろうが」
「おお、そうだった、すまぬな、忘れておった」
そう言ってソフィはヌーの四肢に付けた『神聖魔法』で出来た拘束具を外すのだった。
「ちっ、忘れるんじゃねぇよ。さっさと『
どうやら本当にソフィがエヴィを見つけ出すまではソフィと一緒に居るらしく、自分一人で何処かへ行くような素振りを見せなかった。
「クックック、いやに協力的になったでは無いか。拘束具を外した瞬間に、別世界へ行くんじゃないかと考えていたが、安心したぞヌーよ、お主は中々義理堅いようだな」
「ふんっ、何を勘違いしているか知らねぇが、どうせ逃げたところでてめぇやフルーフの野郎が追いかけて来るだろうが。俺は無駄な事はしない主義なんだよ。いいからとっとと探しに行くぞ」
「クックック、照れぬでも良いでは無いか」
ソフィはそう言って、ヌーの後を追いかけようとしたその時だった。
「!?」
「ヌーよ……」
「ああ、どうやら俺達に客のようだな」
ソフィとヌーの居る森全体に結界が張られた事を二人は同時に感知するのだった。
「おいおい、この数の増え方は尋常じゃねぇぞ?」
結界を感知してから僅か数秒程の出来事だった。
『
「ヌーよ、上空だ!」
『
「うるせぇっ! 言われなくても分かってんだよ!」
ソフィにそう言い返しながらヌーは、面を被った襲撃者たちに向けて魔法を放った。
――超越魔法、『
金色を纏いながら放つヌーの魔力は相当に高く、超越魔法であっても恐ろしい殺傷力を持つ。
「「!?」」
ヌーに向けて攻撃を仕掛けようとしていた者達は、器用に空中で態勢を変えると、ヌーの魔法を避けながら地面に着地する。しかしその瞬間、面をつけた者達は一斉に口をおさえながらその場に蹲る。
「クソ野郎どもが、誰に向かって仕掛けてきてやがる?」
襲撃者たちが着地するであろう場所に先手をうったヌーが、魔法を放っていたのだった。面をつけた者達の周囲が禍々しい色に染まり、空気が汚染されていた。
その汚染魔法の名は『
ヌーによって生み出された強力な毒が空気中に混ざり、それを吸い込んだ者達は即座に意識を失い耐魔力が低い者は、そのまま意識を戻る事なくあの世へと向かう事になる。
ヌーは面をつけた者達がそのまま倒れ伏すと思っていたが、次の瞬間にはその場から一斉に姿が消えた。
「魔法か? 転移で移動したのでは無く、完全に姿が消えておる」
そう呟くソフィの背後に、突然二体の大きな体をした犬が出現する。
「「グガァァッ!!」」
二体の巨体な体をした犬は、そのままソフィを食い千切ろうと襲い掛かって来る。
「魔物? クックック、面白い」
ソフィの右腕に食らいつこうと迫ってきた一体の犬が、その腕にかぶりついた瞬間に、巨躯の犬は顔がはじけ飛んだ。
「ギッ!?」
もう一体の犬はそれを見て慌てて後ずさりながらソフィを見るが、その場にはすでにソフィの姿が無く、犬は唸りながら辺りを見回す。
「何処を見ている? 我はここだ」
巨躯の犬はその言葉に慌てて振り返る。そして金色に光るソフィの目を見た瞬間、種の本能が働いたのか全身を震わせながら怯え始める。
「どうした? 抵抗せぬならそのまま死ぬぞ」
そう言ってソフィが巨躯の犬に手を伸ばした瞬間。犬は背後を振り向いて、全速力でその場から駆け出していった。
「ギッ!!」
――しかし次の瞬間。
逃げ出した巨躯の犬の体が燃え上がったかと思うと、そのまま断末魔をあげて、ボンっという音と共に、一枚の紙になり替わるのだった。
「ほう? 私の使役する『妖魔』を退けるとは骨のある奴等だな」
「中々に高位の妖魔達だったのですがね、彼らは一体何者でしょうか」
逃げ出した巨躯の犬を仕留めた者達は、先程の狐の面を被った人間のようであった。
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