第764話 大事な大事な大親友

 始祖龍キーリ直属の守護龍である『ディラルク』と『ミルフェン』に、キーリの居た拠点周辺を警備させる事にして、レア達は遂にシティアス上空に到着する。ここからレイズ魔国城まではもう目と鼻の先である為、二人は速度を緩めて飛び始めた。


「ここも最初に比べると、復興が進んだわねぇ」


「そりゃそうだ! ユファの奴やリーゼ。それにレドリアやこのレイズ軍の魔法部隊が結集して街々の復興に日々を費やしているんだぜ? これでまだ荒廃した土地のままだったら、やってられねぇよ」


「そうねぇ、アンタも毎日色々頑張ってるみたいだしねぇ! 聞いたわよぉ? レイズ軍の皆の為にアンタお手製の軍の制服とか作ってあげてるんだってぇ?」


「ああ、それはユファの奴に頼まれて作っただけだ」


「ユファに? へぇ……、ふーん!」


「少し前にお前に作ってやった服があっただろ? あれを着ているお前を見て、ユファの奴がレイズの兵達にも作って欲しいって頼んできたんだよ」


 レアがソフィの配下となった次の日に、キーリがレアを守る為に作った服を見て、ユファは甚くキーリの加護のついた服の魔防力を気に入り、是非レイズ軍の正規の軍服として仕上げて欲しいと頼んだのであった。


 当然仕事として頼み込む以上、ユファも見返りを用意してある。それは再びターティス大陸が独立となった時にレイズ魔国の女王シスが中心となり、キーリの龍族の国に対し、三大魔国と同じ規模の『同盟条約』を結ぶ事を約束させると告げたのである。


 ヴェルマー大陸の三大魔国同盟は、ラルグ魔国の先代王であるソフィが作った同盟だが、その関係はラルグ魔国が次代に移った今でも継続されている。


 その条約の内訳を簡単に説明すると、この三大魔国同盟を結んでいる三国に対し、他国が攻め込んできた際、あらゆる諸事情が含まれようとも、同盟国の安全を優先する物とし、共同で防御・攻撃を行い攻め込んだ敵国を殲滅する事に協力する事や、戦争によって受けた被害に対して、国を挙げての復興支援を約束するといった物である。


 これまではキーリとソフィが結んだラルグ魔国と、ターティス大陸間の同盟が重んじられてきたが、今回のキーリの働きによって、レイズ魔国もまたターティス大陸に対して、この条約を見返りにしたのである。


 それ程までにキーリの作った制服には、価値があるとユファは判断したのであった。


 当然キーリの魔力を使って作る制服の為、キーリが一人で全員分の服を作る事となった為、キーリは全員分が完成するまで毎日が『魔力枯渇』状態であった。


 ――しかしそれ以上にユファの用意した見返りは大きかった。


 もしまた『煌聖の教団こうせいきょうだん』のような存在や、世界を危険に陥れる存在が現れないとも限らない。

 そんな時にキーリ自身よりも遥かに強い存在であるシス女王が率いるレイズ魔国が、ターティス大陸に対してヴェルマー大陸の三大魔国同盟と、同規模の同盟を結んでくれるというのは、とても垂涎物で価値のある条約に映ったのである。


 当然、大魔王ソフィが居る間は、キーリ達龍族にはソフィという最強の後ろ盾がある為、三大魔国同盟と同規模の同盟は必要無いかもしれない。


 しかし当然の事ながらソフィが、元の世界に戻ってしまった後もこの世界は変わらずに続いていく。

 この世界の事は、出来るだけこの世界の者達で何とかしていかなければならない。キーリはいつまでもこの世界の平和を全て、一体の魔族に背負わせる身勝手な事をしたくないと考えていたのである。


 ユファもシスもキーリと似たような事を考えていたようで、今回のキーリの魔力付与の制服は、互いにいい歩み寄りとなる一歩として扱う事にしたのであった。


 今回レアはその事を聞いて、当然それは必要な事であると理解を示してはいたが、それでも少しだけ、ほんの少しだけ『』を他者にとられたという嫉妬感があった。


 しかしレアはそれを愚痴愚痴と言葉にするほど子供という年齢では無い。

 一言は言っておきたいと思っていたのであった。


 当然キーリもレアが本当に言いたい事は理解している。

 だからこそ目の前で口を尖らせながら不満そうに話を聞いている見た目幼女に、


「ほら、これやるよ」


 そういってキーリは右手で魔力を放出したかと思うと、何も無い空間から一つの服を取り出した。


「え?」


 それは前回にキーリに貰った服とも違う、レイズ魔国の兵士達の制服とも違う一品物。


 かつてのキーリよりも魔力が高くなった、今の始祖龍キーリがであった。


「この服は今度もまた、お前の命を救ってくれるはずだ!」


 明後日の方向を向いて照れ隠しをしながら『


「あ、アンタって……、ほんとに、うう……!」


 まさか本当に自分の為に用意してくれていると思っていなかったレアは、突然のサプライズプレゼントに大事そうに服を掴んでいる両手を顔に持っていき、涙を流して喜ぶのであった。


「お、おい……! 何で泣くんだよ」


「だってぇ……!」


 親友からのプレゼントに驚きと嬉しさで涙を流すレア。そこにシティアス上空を守っていた、他の龍族たちが二人の姿を目撃して、ニヤニヤと笑っていた。


「おい! てめぇら見るんじゃねぇ! さっさと警備の仕事に戻りやがれぇ!」


 キーリがそう言うと、笑っていた龍達は慌てて散っていった。

 その散っていく龍達の後ろ姿を見ながら、キーリは物思いに耽る。


 前回ミールガルド大陸に現れた魔族『ビラーノ』に命を奪われかけたレアは、今回も『煌聖の教団こうせいきょうだん』の大魔王達に殺されかけた。


 キーリ達があと一歩来るのが遅ければ、レアのこの嬉しそうにしている姿を見る事は出来なかっただろう。


 レアともう会えなかったかもしれないと想像したキーリは、警備以外の時間に必死に毎日の時間を費やして、この服を作り上げていったのであった。


 そしてキーリは、レアの方を見ずに真剣な表情で静かに言葉を漏らす。


「レア……。頼むからしてくれよ?」


 レアはその言葉に再びぽたり、ぽたりと涙を流しながら、大事な親友に感謝の言葉を口にする。


「うん、分かってる。ありがとねぇキーリ……」


 シティアス上空で龍族と魔族の大親友二人は、そう言葉を交わすのだった。


 ……

 ……

 ……

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