第763話 サイヨウの行う修行

 ゼグンスにある自分の屋敷へ戻ってきたソフィは屋敷に入ろうとするが、庭に居るハウンド達が一斉にソフィの元へ向かってきた為、一度そこで立ち止まり、ひとしきり配下達の頭を撫でまわす。するとソフィに触られて嬉しそうに目を細めるハウンド達だった。


「おかえりなさい、ソフィ様」


 そこへ熊の魔物であるベアが、主であるソフィに挨拶をし頭を下げた。


「うむ、留守中に屋敷を守っていてくれて感謝するぞ」


 ハウンドを撫でていたソフィはそう言って立ち上がると触られたりなかったのか、ハウンドも立ち上がり、ソフィの足元に頭をこすりつけ始める。


「ハウンド。ソフィ様はリーネ様の元へ行かねばならぬ。そこらへんにしておけ」


 ベアにそう言われて渋々とハウンドは一鳴きすると、ソフィの隣でお利口そうに座り直した。


「すまぬな。またお主達を連れて『アレルバレル』の世界へ向かうから、それまで待っていてくれ」


 ソフィがそう言うと不満そうにしていたハウンドや、他の配下の魔物達は目を輝かせながら嬉しそうにソフィに一鳴き吠えるのだった。


 再びソフィはハウンドやベイル達の頭を撫でた後、庭から屋敷へ歩いていく。そこでソフィは一度立ち止まり、ベアの方を向き直った。


「ベアよ。お主の身に何か変わったことはないか?」


「? 変わった事? どういう事でしょうか……」


「普段より魔力が高まったり、突然に頭が痛くなり、苛立ちが募ったりなどだ」


「いえ、特には……。この大陸に来た時と何も変わってはいないですが……」


 ベアのその言葉を聞いたソフィは、杞憂だったかと思い直すのだった。


「そうか、それならばよいのだ。今後も何か変わった事があれば、直ぐに我に言うのだぞ?」


「はい! 分かりましたソフィ様」


 そう言って頭を下げるベアの頭を撫でよう……として、苦笑いを浮かべたソフィは、ベアの足の膝あたりを軽く叩き、そのままソフィは屋敷の中へと入っていくのだった。


 ソフィが屋敷の中に入ると、リーネは既に玄関の入り口に立っていた。


「おかえりなさい、ソフィ!」


「うむ、ただいま」


 二人はこのやり取りをした後、ほっとする笑いを浮かべ合う。


「それでもう『レルバノン』さんとの話は無事に済んだの?」


「うーむ……。直ぐに解決するというワケではなさそうだったからな。我の方の用事を優先させてもらう事にして、少しだけ現状維持という形で収まった」


「そうなのね。という事はすぐに『アレルバレル』の世界に戻らないと行けない?」


 笑顔はそのままのリーネだが、先程より少しだけ切なそうに見えたソフィは、静かにリーネを抱き寄せる。


「レアの話によるとフルーフの奴は、三日程はマジックアイテムを眺めているそうだ。その間はゆっくりできるぞ。リーネよ」


「!」


 言うが早いかソフィは、そのままリーネの抱き寄せていた体を両手で掴みあげると、お姫様抱っこをしながら寝室へと歩いていくのだった。


「そう。じゃあフルーフさんのご厚意に預かりましょうか」


 顔を真っ赤にしながらリーネは、ソフィの腕の中で上品に笑うのだった。


 ……

 ……

 ……


 その頃レイズ魔国領に到着したレアは、レイズ城を目指して空を飛んで行く。


 その途中でレアは誰かの声が聞こえて、そちらの方を向くとキーリがこちらを見ていた。


「キーリ!」


 レアはそのまま方向転換して、キーリの方へと向かっていった。


「やっぱりレアじゃねーか! ソフィ様と一緒に『アレルバレル』の世界へ向かったんじゃねえのか?」


「ソフィ様がねぇ、リーネに会いたいってきかなくて、仕方なく私もこの世界に戻ってきたのよぉ」


 そう言ってレアはペロっと舌を出して笑った。

 そのイタズラじみた笑いを浮かべるレアを見て、キーリは苦笑いを浮かべた。


「事情は分かったが、普段からそんな事を言ってて誰かに聞かれでもして、いつかソフィ様の耳に入って、どやされたとしても助けねぇぞ?」


「大丈夫大丈夫! こんな冗談はアンタとユファの前くらいでしか言わないわよぉ」


「全く」


 溜息を吐くキーリにシシシっと両手を口元に持って行って、笑うレアであった。


「それで貴方。何でレイズ城じゃなくて、こんな辺鄙な拠点の空に居たわけぇ?」


 ここはもうレイズ魔国の領土内ではあるが、ここからシティアスやシス女王の居るレイズ城までは、まだまだかなりの距離がある。


 キーリや龍族達の仕事は、レイズ城周辺の空の見回りである為、ここまで城から離れた拠点は、別のレイズ魔国軍の管轄の筈なのである。


「ああそれはだな。リディアやラルフ達が今レイズ城の庭で、修行を始めている所為なんだよ」


「どういう事かしらぁ?」


 リディアやラルフ達がレイズに居る事はソフィから聞いてはいたが、その二人が修行を始めたからと言って、何故キーリがこんな所を守っているのか全く話が繋がらず、レアは首を傾げてキーリに問いかけるのであった。


「何やらサイヨウ・サガラとかいう人間が、リディア達の修行の指導を始めたんだが、シス女王の奴が、ラルグ魔国との境にある拠点周辺を見回って欲しいと頼まれたんだ」


「サイヨウ・サガラって、何処かで聞いたような。あっ! もしかして私を助けてくれた、人間の事だったかしらぁ」


(※1 かつてルードリヒ王の指名依頼を果たしたソフィ達が、指名依頼の依頼達成を果たした時の事である。その討伐対象のベイルを手懐けたソフィ達だったが、件の討伐対象であるベイル・タイガーを町の中に連れていく訳にもいかない為、レア達は依頼達成の報告が終わりまでトータル山脈の麓の森でベイル達と待っていた。しかしその時に『煌聖の教団こうせいきょうだん』と同盟を結んでいた『ビラーノ』という男にレア達は襲われた『代替身体だいたいしんたい』のレアとラルフでは、ビラーノには全く歯が立たず、このままではやられてしまうといった時に、その人間の山伏である『サイヨウ・サガラ』が、レアの気を失った後に助けに入ったのであった)


(※2 当時そのレアは気を失っており、サイヨウの姿をその目で見た訳では無かったが、後にソフィにその山伏に助けられたという事を聞かされたのである)


「何だ。お前とも接点があったのか。そのサイヨウって人間に、ラルフの奴が教えを乞いたいとか言い出して、それで今、レイズ城の庭で結界を張ってアイツラ修行をしてやがるんだよ」


(結界かぁ、ここからだとどういう規模なのか分からないけどぉ。少し見てみたい気もするわねぇ)


「ねぇ、キーリ? 私もそのサイヨウって人に会ってみたいんだけどぉ、貴方も付いてきてくれないかしらぁ?」


「えっ!? 俺もか? うーん、まいったな。今持ち場を離れたらシス女王に怒られちまうよ」


「ねぇ、いいでしょぉ? 行きましょうよぉ」


 レアに頼まれると断れないキーリは、やれやれと溜息を吐きながら仕方なしに頷くのだった。


 ……

 ……

 ……

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