第761話 ツーカーの仲

「ところでレアよ。フルーフはアレルバレルの世界で何をしておった?」


「フルーフさまぁ? えっとですねぇ、ソフィ様が戻られるのは二、三日後だろうからと、アサの世界から持ち帰ってきた、を自室で眺めていましたよぉ」


 レアの言葉を聞いたソフィは、嬉しそうに表情を変えていく。


「そうか……。確かに我はこの後、レイズ魔国に居るラルフ達やシスにも会っておかねばならぬし、今日中に戻るという事は出来ぬだろうな」


 どこか言い訳じみたソフィの言葉を聞いたレアだったが、内心ではソフィが『リラリオ』の世界に残りたがっている理由が別にある事を知っている。


 それはつまりこの世界に残してきている自分の最愛の妻である、


 リーネとソフィが正式に結婚を果たしてからまだ日が浅いが、組織の一件で身の安全の為『リーネ』をこの世界に残させた為に離れ離れになっていた。つまりソフィにとっても、リーネにとっても久しぶりに顔を合わせられたのである。出来れば少しでも長く、一緒に居たいと思うのは当然の事だろう。


 レアは即座にソフィの本心を察したが、ここは気がついていない様に、振る舞おうと考えるのだった。


「ソフィさま! 私も少しキーリに会いに行きたいのですが、少しの間だけアレルバレルの世界へ戻るのをお待ち頂いても宜しいでしょうか」


「む! そ、そうじゃな! お主もキーリとは久方ぶりだ。存分に会いに行くがよいぞ!」


 リーネの元へ早く行きたいと思っていたソフィは、レアの言葉にしめたとばかりに顔を綻ばせる。


 その顔を見たレアも表情では、申し訳なさそうにしながら礼を告げたが、内心では上手くいったわねぇと、溜息を吐きたそうにするのだった。


 見た目は幼女のレアだが、年齢でいうならば齢3000年を越えているいい大人なのである。

 そして今のソフィの見た目が、また十歳くらいの子供に見える為、自分より年上だという事は存じているレアでもどこかソフィが弟のように感じられてしまい、ソフィの喜ぶ顔を見て、レアはどこか嬉しそうにするのだった。


 しかし最初からこうだったわけではない。かつてレアがソフィの配下となった最初の頃は、ソフィの事をと考えていてようやく最近になって、自分の為に諫めてくれたり優しくしてくれたり、そして怒ってくれるソフィの事をへと印象が変わったのであった。


(……ユファの先輩に聞いたけどソフィ様は、私が組織の連中に襲われた事で憤慨して、報復を決意してくれたらしいし、本当はソフィ様は誰よりも優しいのよねぇ。そんなソフィさまに恩を返すのは悪い事じゃないはずよぉ。フルーフ様には悪いけど、少しの間だけ待っていてもらいましょうかぁ)


 レアは両手を口に当てて、シシシッとイタズラをした子供のように笑うのだった。


「では我たちもレイズに向かうが、少し屋敷に忘れ物があったのを思い出した。すまぬがレアよ、お主は先にキーリの元へ行ってまいれ。レイズ魔国の警備について居る筈だ」


 レアはソフィがリーネと会う為に何か口実を用意しそうだと理解しており、何かこの場で言い訳をするだろうなと考えていた為に、特に疑問を呈する事無く頷いて見せた。


「わっかりましたぁ! それじゃあソフィ様、何かあれば『念話テレパシー』を下さいねぇ」


「うむ、また連絡する」


「はぁい! それではどうぞぉ」


 そう言ってレアは塔の窓を開けた後、外に出てレイズ方面の空へと『転移』していった。


 ソフィはレアがレイズ魔国へ向かっていく後ろ姿を見ながらそっと呟いた。


……か。どうやらあやつにはバレておったようだな」


 そう言って苦笑いをしながらソフィ自身も開いている窓に手を掛けた後『高速転移』で『ゼグンス』にある自身の屋敷へと向かっていくのだった。


 …………


 窓から出て行った二人を目撃したゲバドンは、過去にもキーリや、ディアトロス。そしてイリーガルやブラストといった者達も窓から出て行ったのを思い出す。


 何故誰もラルグの塔の出口から出ずにと、首を傾げながら疑問に思うのだった。


 ……

 ……

 ……

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