第755話 二大陸間の交流

「それではそちらにお座りください」


 この部屋はソフィが居る頃から会議室として使っていた。今も変わらずに使われているようで、国の中枢である王から『ディルグ』が話し合う為の椅子の数が揃い、顔を向かい合わせて話が出来る現代オフィス仕様のようになっている。


 ソフィが椅子に座ると、この場に居たレヴトンやビレッジ、ゲバドン、そしてエルザやレルバノンといった現『ラルグ』魔国の主だった者達も座り始める。


 しかしソフィが知らない魔族が一体、皆が座っている中で一人立っていた。


「まず本題に入る前に、ソフィ様に紹介したい者が居ます」


 レルバノンがソフィにそう言うと見慣れない魔族を一瞥する。立っていた魔族はその視線を受けて口を開き始める。


「あ、新しくこの国の軍管理部長に拝命されました『ジェイク・ディルグ』です! 宜しくお願いします!」


 かつてこのラルグ魔国で『ディルグ』の座についていたのは、現ラルグ統括軍事副司令官である『ゲバドン・トールス』であった。


 そして『ジェイク』という目の前の魔族に『ディルグ』という名を与えられたという事は、この国で『フィクス』『ビデス』『クーティア』『トールス』に次ぐ『王』をNo.に座る事を許された者という意味がある。


「ほう……。お主が新たなディルグか。知っておるかもしれぬが我はこの国の相談役のソフィという。ジェイク・ディルグよ、宜しく頼むぞ」


「は、はは! 宜しくお願い致します! ソフィ様!」


 当然ジェイクが先代ラルグ魔国王を知らぬわけも無く、丁寧にソフィから紹介を受けて慌てて頭を下げるのであった。


 一国の王を退いた身とは言ってもソフィの事は、この大陸で知らぬ者が居ない程の存在である。


 この世界の調停を担う存在であった龍族と戦争をし、その龍族の王を自分の配下にしただけでは無く『リラリオ』の世界の原初の魔王と魔族達にいわれている『魔王』レアをも配下にした事は、ヴェルマーの大陸中に知れ渡っている。


 それだけでは無く『ミールガルド』大陸ではとされており、レイズ魔国の冒険者ギルドの設立に関わり、そのレイズ魔国王である『シス』女王やトウジン魔国王である『シチョウ』王からの信頼も厚い。そんなソフィと直接会話をして、挨拶までしてもらったのだから、ジェイクは身に余る光栄だと感動に打ちひしがれるのであった。


「それでは本題に入りたいと思います。もうジェイクも座って結構ですよ」


「は、はい! レルバノン王!」


 ジェイクが座ったのを見計らい、レルバノンは手元の書類を見ながら口を開く。

 どうやらここからが『ソフィ』に伝えたかった本題のようである。


「我々は今後人間達の住む大陸であるミールガルド大陸と、私ども魔族の大陸であるヴェルマー大陸の間であらゆる面で交流を行い、共に親睦を深めたいと考えております」


 既にこの話を聞かされていたのか、ソフィ以外の者達は黙って頷いている。


「大陸間の親睦を深めるのは良い案だとは思うのだが、まだ時期尚早では無いだろうか? 少し前にミールガルド大陸と戦争が行われたところだろう?」


 当時のラルグ魔国王であったシーマが、ヴェルマー大陸から逃れてミールガルド大陸に身を潜めたシスを探し出す為、その人間達の居るミールガルド大陸に多くの魔族を派遣するという事がった。


 しかしその魔族達はシス達によって返り討ちにあい、本腰を入れたシーマの率いるラルグ魔国軍が、ミールガルド大陸に戦争を仕掛けたのである。当然こちらもソフィやリディアの手によって、撃退する事となったが、まだその時からそこまで年月は経ってはいない。


 冒険者ギルドの冒険者たちを通じて、少しずつ両大陸間の交流は押し進められては来たが、まだまだ冒険者では無い一般人や商人、人間達の貴族や王族にとってヴェルマー大陸の魔族達は、畏怖の対象であろう。


 詳しい事情を知る一部の人間達は、ソフィがラルグ魔国の王であった事を知る者もいるが、人間全員がその事を知っているというワケでも無い為、突然そういった事を言われても『ミールガルド』大陸側としては受け入れられないだろう。


「勿論時期尚早だという事は分かっております。まずはレイズにある冒険者ギルドから数人の魔族の冒険者をミールガルド大陸の冒険者ギルドに派遣し、冒険者ギルドを通じてあちら側の冒険者と交流を深めた後、二大陸間での冒険者ギルドの交流戦を行いたいと思っております」


「ほう。冒険者ギルドを通じての人間達との交流か」


「当然交流戦ではあちら側の王家であるケビン王国と、ルードリヒ王国の国王にも参加していただき、まずは首脳を通じて交流を行いまして、そこで我々魔族側は人間側に対して、親睦を深めたいと思っているという事を大々的に宣伝をしたいと思っているのです」


 確かに両国間の国王同士がギルドの交流戦の観戦を行えば、注目度は跳ね上がり人から人へと伝わっていき、宣伝アピールとしては申し分が無いだろう。


 試合内容も良く魔族達が想像よりも怖くないと、理解を示してくれるものが増えれば、今よりも親睦が深まる事は間違いはない。


 いずれはヴェルマー大陸と、ミールガルド大陸の垣根も無くなり、どちらの大陸にも人間や魔族が、当たり前に行き来する日が来るかもしれない。


 昔はヴェルマー大陸に人間が行こうと思う者は居なかったが、ソフィがラルグ魔国王となった事にも影響して、冒険者ギルドの一部の人間達『Aランク』に属する者はクエストで、ヴェルマー大陸に移動している者も増えてきている。レルバノンの今の話も有り得ない話では無いだろう。


 ――しかしそれには大きな問題が三つある。


 どうやってミールガルド大陸の二大王家。

 『ケビン王国と『ルードリヒ』王国の国王を冒険者ギルドの交流戦の場に呼んで、観戦させるかである。

 そしてもう一つの問題は、ミールガルド大陸の冒険者は『Aランク』であってもこちらの大陸の『Eランク』もしくは『Fランク』以下の強さしかない事であろう。


 『魔族』と『人間』とで戦力差がありすぎる交流戦で、一体誰が楽しめると思うだろうか?

 更に最後の問題としてケビン王国と、ルードリヒ王国の仲の問題である。


 当時ソフィがケビン王国とルードリヒ王国のギルド交流戦で、ケビン側の冒険者ギルドで参加したときに比べると、今はだいぶ両国家間の仲は落ち着いてはきている。


 しかし互いの国家の領地の冒険者同士が手と手を取り合って、いざヴェルマー大陸の魔族達と戦おうとまでは行かないであろう。


 物思いに耽っていたソフィは、ようやくレルバノンに視線を向けられている事に気づいた。


「当然ソフィ様が疑問に思っておられる事も承知しております。そしてこの交流戦の成功の有無に関しても、ソフィ様のご助力が無ければ、成り立たないという事も……」


「一体我に何をさせようというのかな?」


「今後予定しているケビン王国と、ルードリヒ王国との首脳会議に、是非ソフィ様に参加していただきたいのです」


 そこでレルバノンが立ち上がり頭を下げると、他のラルグの重鎮達も一斉に立ち上がって同じようにソフィに頭を下げるのだった。


 ……

 ……

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