第754話 懐かしい顔
ラルグの塔まで行くには要塞を通り抜け無ければならない為、エルザに案内されながら要塞の中を歩いていく。
「……我はあまり影響は無いが、少し暗すぎるのではないか?」
要塞の中は薄暗く、人間よりも視力がいいとされる魔族でさえも中は歩きずらい。
「敵が侵入してきた時の為に、要塞の中はわざと暗くしているんだ」
「ふむ、しかしそうであればわざわざ要塞を通らずに空から侵攻すればよいのではないか?」
「それこそ格好の餌食よ! 何故なら要塞の上を通り過ぎようとすると要塞からだけでは無く、その奥のラルグの塔から高さを活かして蜂の巣にされるからね」
「成程」
(どうやら色々と考えてはいるようだ)
確かにこの要塞の造りや、空から侵入する事も考慮して攻撃が出来るように見据えられている為、着眼点としては申し分が無いといえる。
当然それはこの世界の魔物や、魔族が基準値で考えればであるが。
アレルバレルの世界の魔族や組織の者達であったり、この世界の魔族の始祖『レキ』と戦うのであれば、これに加えて結界を張りながら戦闘に長けている者達を配備したりと、色々と改良を加えて行かなければならないだろう。
――と、そこまで考えたソフィだったが、そうなってくるとまた別問題になってしまうかと改めて考え直すのだった。
エルザに先導されて暗い要塞の中をしばし歩き続けたソフィ達。やがて外の日差しが照らす場所に辿り着いた。どうやら要塞の反対側にある出口のようであった。
要塞から出て直ぐに中庭に直結しており、ソフィは今居る場所に見覚えがあった。ここはかつてレアとキーリが、仲良く遊んでいた場所だったのである。ここの場所をあの時は、塔の最上階から見下ろしていた。どうやら中庭を縮小して外からここまでトンネル状に掘り進めて要塞にしたのだろう。
門兵が居た場所からここまではどうやら一直線の道のように感じられていたが、中ではジグザグに歩かされていたらしい。ソフィは塔の周囲を見渡しながら、地形を頭に叩き込む。
(塔の周囲は小さな中庭になっていて、更にその周りは円状に建物が防壁の役割を担っているな。どうやら反対側から入ってきても、この中庭を経由しなければ塔までは辿り着かないようだ)
塔の周りは三百六十度見渡しても高い要塞の建物がある為、この中庭に警備やトラップを設置すれば、中庭部分も第二の要塞代わりに出来るだろう。中々手の込んだものを作ったなとソフィは感心する。
(防衛手段として後は、重力を司る特異を持っていたバルドのように、空からの侵入者を強制的にこの中庭に払い落とす事が出来る者が中継に入り、落ちてきた所を集中砲火にすることも出来る)
「成程、本丸であるラルグの塔自体を囮にすれば、何も分からない者達はそこで終了に出来る。素晴らしいでは無いか」
ソフィが何やら褒めているところを見て、エルザは再び顔を綻ばせる。
「そうだろう、そうだろう! ソフィ、こっちだ! 塔に入ろう」
スキップでもしそうな程エルザの足取りが軽くなったのを見て、ソフィは微笑ましそうにその後ろをついていくのだった。
…………
塔の中はこれまでとなんら変わりは無く、ソフィは見慣れた塔を昇って最上階へとエルザに案内された。
かつて会議をするときに使っていた部屋の前まで行くと、エルザが扉をノックして、中に居るであろう存在に声を掛けた。
「レルバノン様! ソフィをお連れしました」
少し遅れて中から『レルバノン』
「どうぞ、中へ」
エルザはその返事を聞いて、ゆっくりと扉をあける。
開かれていく扉の向こう側には、懐かしい顔ぶれの魔族が椅子に座ってこちらを向いていた。
そしてソフィの顔が見えたと同時、中に居た魔族達が一斉に立ち上がって、ソフィに向けて一礼をする。
「お帰りなさいませ、ソフィ様」
形式ばった挨拶で先代ラルグ魔国王であるソフィにそう告げるのは、現ラルグ魔国王『レルバノン』であった。
ソフィは、中に居た者達に向けて声を出す。
「お主達も久しぶりだな」
……
……
……
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