第753話 ソフィを尊敬する門兵

 ラルグ本国にあるラルグの塔。

 ここには国王であるレルバノンや、国の中枢を担う者達が居る場所である。他国では王国には城というものがつきものだが、このラルグ魔国は違う。この聳え立つ塔の高さを活かして、他国からの侵攻があればすぐ様対応が出来る造りとなっており、歴代のラルグ王はこの塔を本丸にする事を善としてきた。


 魔王レアによって、前のラルグの塔は燃やされてしまったが、その名残を残す為に再び新しくラルグの塔は建立された。先々代であるシーマ魔国王までは、このだったが、レルバノンが王となった後、ラルグの塔の周辺を覆う要塞を作り上げた。


 シス女王の居るレイズ魔国とは違い、この国にはを持つ者が居ない為、その分この城代わりの塔を建物を使って強固する方法をとったようである。その新たに出来た要塞を見たソフィは、物珍しそうに見上げるのだった。


「成程。これは中々堅牢な守りにしたものだな」


「そうだろう! ソフィが居なくなってしまったからな。万が一に備えて守りを強化しようと、レルバノン様が色々と模索し要塞を作られたのだ」


 要塞はラルグの塔の最上階までは高くは無いが、それなりに高さを持っている。要塞から直接ラルグの塔へは入れないようになっていて、一度要塞を抜けた先にある中庭を経由しなければ、ラルグの塔へは入れないようである。


 トウジン魔国にある闘技場に似た造りとなっているなと、ソフィは感想を浮かべるのだった。


「うむ」


(この要塞に『大魔王最上位』領域レベルの結界を用意させて、要塞の左辺と右辺にそれぞれ遠距離魔法を放てる者達を待機させて、中央から前衛となる壁の役割を担う戦士たちを配置すれば、ある程度は持たせられそうだ)


 アレルバレルの世界に居る魔族をとして考えながら、ソフィはどれだけ耐えられるかを目算し始める。


 そこまでソフィが考えている事など露知らず、エルザは新しく出来た要塞を褒められて自慢気に何やら要塞の説明を始めていた。


「――という事なのだソフィ! 凄いだろう!」


「う、うむ。大したものだな……。よし、ではレルバノンのところへ案内してくれるか?」


 要塞がどれだけ使えるかについて考えていたソフィは、エルザが何を話していたかあまり聞いていなかった為、レルバノンに早く会わせて欲しいと、遠回しに伝えるのだった。


「そ、そうか! この要塞の凄いところをまだまだ紹介したかったのだがな。残念だけど仕方ないな……。また今度ゆっくりと話そうか!」


 どうやらエルザはこのこの要塞をいたく気に入っており、ソフィにもっと聞いて欲しかったようである。


「楽しみにしておこう」


「ああ!」


 エルザは嬉しそうな表情を浮かべる。

 そしてソフィ達は要塞の前に居る兵士たちの元へと近づいていった。要塞の入り口に居る兵士たちは、気怠そうに欠伸をしていたが、近づいてくるソフィの姿を見て、その兵士は驚きの表情を浮かべた。そして慌てて背筋を伸ばして敬礼をする兵士。


「! こ、これはソフィ様! お帰りなさいませ!!」


「うむ。お主もお勤めご苦労」


 兵士の顔に見覚えが無いソフィだったが、何やら興奮している兵士を労うと、その兵士は信じられないとばかりの驚きの表情の後、顔を綻ばせ始めた。


「い、今すぐ扉を開けますので、少々お待ちください!」


 言うが早いか兵士は慌てて、この一つしかない入り口の扉を開き始めた。


「お待たせいたしました! どうぞお通り下さいませ!」


 扉を開けた兵士は凄い勢いで頭を下げた。


「ご苦労様! さ、ソフィ入ろう」


 エルザがそう言うとソフィは頷き中へと入っていった。

 そんなソフィとエルザが中へ入っていく姿を見えなくなるまで見続ける兵士だった。背後から兵士の熱視線を浴びていたソフィは、中に入ってからそっとエルザに口を開く。


「今の門兵だが、ずっと我を見ていなかったか?」


「ああ。あの新人はソフィに憧れて、最近この国の兵士になった魔族でね。本当はソフィに仕えたかったみたいだから会えて相当に嬉しかったんじゃないか?」


「……そうだったのか」


 いつかまた会う事があれば先程の兵士に話しかけてみようと、考えるソフィであった。


 ……

 ……

 ……

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