第723話 若い魔族の爆弾発言

「では、準備が出来たらまた知らせに来る」


「フン、勝手にしろ」


 ソフィは牢の中に居るヌーにそう言い残すと、フルーフを一瞥した後に地下牢から戻るのだった。

 魔王城の玉座の間に戻る廊下で、ソフィはフルーフに口を開いた。


「フルーフよ、すまぬな。しかし我の大事な配下の為なのだ、少しの間だけ我慢をしてくれ」


「ああ……。お主の気持ちは分かっておるよ。それに『呪縛の血カース・サングゥエ』はワシの編み出したものじゃ。まさかあやつが、使いこなしておるとは思わなかったが、全く油断が出来ぬ奴になったものじゃな」


 自分の技のように完璧に『呪縛の血カース・サングゥエ』を使いこなしたヌーに、フルーフは溜息を吐きながらそう評価するのだった。


「あやつのは並々ならぬものだ。我はそんなヌーを買っておった」


「理解は出来るがな。しかしソフィよ、こうなった以上ヌーの奴を外に出すのは仕方ないが、油断だけはするな。ワシは私怨を抜きにしても、アイツを自由にするのは良しとは思わぬ」


「……」


 ソフィはヌーの言葉に立ち止まり、視線を向ける。


「奴が体現者であるという事も忘れるなよ? 特異も明かしてはおらぬし、何かをしでかすような気がしてワシはならぬのだ」


「肝に銘じておこう。しかし奴が何を考えていたとしても我は『エヴィ』達全員を取り戻すまでは諦めぬよ」


 ソフィの言葉にフルーフは頷きを見せる。


「さて、それでは前に言っていた通り、ワシはエイネ殿を迎えに行く。ここに連れて来ればよいのだろう?」


「うむ、我はリーシャ達を玉座の間に集めておくから、エイネを宜しく頼んだぞ」


「分かった。あちらの世界も片付いている頃合いだろうし、直ぐに戻って来るからそのつもりでな」


「ああ、分かった」


 ……

 ……

 ……


 こうしてフルーフを送り出したソフィだったのだが……。


 今、玉座に座るソフィの前でアサから戻ったエイネと、その横でミデェールを睨むリーシャを見て、ソフィは苦笑いを浮かべていた。


 既に先程フルーフの『概念跳躍アルム・ノーティア』によって、このアレルバレルの世界へ戻ってきたエイネは、主であるソフィに対して挨拶を済ませたのだが、その時に横に居る若い魔族を見て、ソフィがそちらを見ると、エイネがアサという世界で起こった出来事。そしてその時に助けた魔族をこの世界に連れて来たと紹介された。


 そこまでは良かった――。


 ソフィがエイネの話に頷き、何があったかを把握した後にミデェールに自己紹介を求めたのだが、その時に出たミデェールの発言によって、この場に居る者達を驚かせ、そしてリーシャを戸惑わせる事となったのであった。


 その問題の発言というのは、ソフィの当然の疑問から出る事となったのだ。


 …………


「初めまして、ソフィ様。先程エイネ様が仰られた通り、命を救われた魔族でございます」


「ふむ、しかし他の魔族達は元に居た世界に残ったそうだが、お主は何故この世界に来ることにしたのだ?」


「はい、その事なのですが……。ソフィ様に聞いて頂きたい事があるのです」


「?」


 ミデェールがそう言うと隣に居るエイネもどこか緊張した面持ちになった。


!」


「「!?」」


「何?」


「ちょ、ちょっとミデェール! 順序が違うでしょう!」


「はっ!? す、すみません!」


 突然のミデェールの爆弾発言にその場にいる者達は、皆一様に驚くのだった。そして慌ててエイネが訂正するようにミデェールに求めるが、その前にソフィが追求をする。


「お主、エイネを好いておるのか? つまりエイネを追って、この世界に来たという事か」


 ソフィの言葉にミデェールは真剣な表情で頷く。


「……」


「貴方はエイネ様の主だと聞きました。僕も貴方の配下に加えて頂けないでしょうか! 僕はエイネ様を愛している、いつかエイネ様を守れる男になりたい……」


「み、ミデェール……」


 ソフィはミデェールの言葉に嬉しそうな顔をするエイネを見た後、こちらに視線を向けているフルーフを見る。


 どうやらフルーフはすでに、この話を知っていたのだろう。そしてそのフルーフはどうやら賛成のようでソフィに頷きを見せるのだった。


 ソフィが考える素振りを見せていると、そのソフィの玉座の近くに立っていたリーシャが、凄い形相で『ミデェール』を睨んでいたのだった。


 ……

 ……

 ……

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